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防衛省は空母が必要であれば、堂々と建造すべきだ

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 輸送艦、おおすみ級の後に計画されたのが、16DDH(ヘリコプター護衛艦=駆逐艦)、ひゅうが級だ。この計画が発表された当時、海上自衛隊は広い飛行甲板を艦橋の前後に配する異常な想像図を公表した。

 わざわざ広い飛行甲板を前後に分割するなど、ヘリの運用上非効率だし、兵装を使う際にも不便で全く意味がない。実際、そのような声が多くの専門家からあがった。恐らくはこれこそが海自の思う壺だったのだろう。

 仮に当初からのプランA、すなわち全通甲板方式を主張していれば、世論からこれは「空母」だと糾弾される可能性があった。

 ところが、はじめに「噛ませ犬」だったプランB、すなわち飛行甲板を前後に分割するという、まったく馬鹿げた案を提案することによって、まず外見が「空母」ではない、あくまで「ヘリコプター護衛艦=駆逐艦」を建造するのだというイメージを世論に与えた。

 しかもわざわざ不合理なデザインを提示することによって、「そんな馬鹿なことをするな。全通式の飛行甲板を採用しろ」と世論が声をあげてくれた。これで大手を振って本来の全通甲板のプランAを進めることができたのではないか。

 実際にこの後、全通甲板方式が採用されたが世論の批判はほとんどあがらず、メディアも問題にしなかった。これは非常に巧妙な世論操作、世論誘導だったと言っていいだろう。

日米共同統合演習に参加する海上自衛隊の護衛艦「ひゅうが」=2010年12月9日、沖縄東方の海域(海自ヘリコプターから代表撮影)拡大日米共同統合演習に参加する海上自衛隊の護衛艦「ひゅうが」=2010年12月9日、沖縄東方の海域(海自ヘリコプターから代表撮影)
 16DDHは名称を一番艦が「ひゅうが」、2番艦が「いせ」であり、帝国海軍の航空戦艦の名前を引き継いでいる。

 航空戦艦とは、戦時中に、旧式化した戦艦の後部の砲塔などを取り払って飛行甲板を装備したものだ。この命名は16DDHはあくまでも「空母」ではなく、かつての航空戦艦同様、ヘリ運用能力をもった水上戦闘艦であるというイメージを植え付けようとしたものではないだろうか。

 16DDHはこれまた帝国海軍の「伊勢」「日向」同様に極めて中途半端な艦となってしまった。通常の護衛艦ほどの武装は搭載しておらず、また対空射撃や対地攻撃にも使用できる主砲を搭載していない。

 ヘリの運用でも、兵装などに艦内スペースを取られ、整備スペースや燃料などのスペースが十分ではない(機関が燃料をがぶ飲みするガスタービンであることも艦内容積圧迫の一因である)。

 16DDHは災害救助や国際貢献にも使用できるとされているが、運べる物資や車輌、収容できる避難民の数は多くない。つまり、「帯に短し、タスキに長し」な艦となった。むしろ、きちんとしたヘリ空母を建造するべきだった。これまた空母保有のため支払ったコストなのだろう。これまた海自にとっては必要な「犠牲」だったのだろう。

 「22DDHは護衛艦=駆逐艦か?(下)――なし崩し的な拡大解釈(2013/08/05)」で書いたように、当時の石破茂防衛大臣は16DDHに関して、空母ではないかという批判が国会で出ることを予想し、あらゆる想定問答を事前に用意していたが、そのような質問は全くなく、拍子抜けしたと後に筆者に語っている。

 また石破茂氏は筆者との共著『軍事を知らずして平和を語るな』(KKベストセラーズ)で防衛大臣時代を振り返って、「私らが悩みに悩んだ16DDH、すなわち『ヘリコプター搭載護衛艦』を予算に組み込んで公表した時、 ・・・ログインして読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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