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潘基文・国連事務総長の発言は誤りか?――今こそ虚心坦懐に

金恵京 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

 2013年8月26日にソウルで行われた記者会見の中で、潘基文(パンギムン)・国連事務総長が、歴史認識によって北東アジアで対立が深まっていることに対して、「日本の政府や政治指導者は深い省察と、国際的な未来を見通すビジョンが必要」と答えたことは日本で大きく報道された。

記者会見でで歴史認識問題に触れた潘基文・国連事務総長=2013年8月26日、ソウル拡大記者会見でで歴史認識問題に触れた潘基文・国連事務総長=2013年8月26日、ソウル
 当日、私は韓国にいたが、その件についてほとんど報道されなかったため、日本に戻って報道に触れた時には不思議な感覚を持った。その後、韓国でも日本の報道を受けて報道が始まったのだが、日本側の対応を語るものに終始した。

 日本での報道をまとめると、発言の翌日、菅義偉官房長官が「我が国の立場を認識したうえで行われているのか、非常に疑問を感じる」と批判し、新藤義孝総務相、古屋圭司拉致問題担当相からも「事務総長として中立性を欠く発言」といった主旨の反論がなされた。

 また、新聞各紙も潘氏や閣僚らの発言を大きく取り上げた。しかし、その後、潘氏が「発言は中立的なもので日本のみについて指摘したものではない」と説明したことで事態は収束するに至った。

 私は潘基文氏の行動に対しては、あまり大きな問題とは捉えていない。恐らくは、硬直した日韓関係を何とかしたいという事務総長としての苛立ち、そして、長年外交官を務めた母国での会見ということでの注意力の低下から生じたことであろう。理解可能であるし、注意力の問題であれば、その後、この件が継続されることはないと思われる。

 ただ、今回の問題から透けて見える事態の方が深刻であると私は考えている。この発言の経緯や事務総長としての中立性はあくまで表層のことであり、問題の真意はより深い所にある。

 それは潘氏の発言の内容である。私は、日本が歴史を省みつつ、潘氏が未来志向で関係の再構築を願ったことを冷静さを欠いた的外れな発言とは思わないし、日本側に、こうした発言の内容に向き合う言質が殆どなかったことを残念に感じた。日本では事態の収束を受けて、発言自体が「無かったこと」とされ始めている。それは日本が長年抱えてきた問題の先送りを生む危険性がある。ここで、今回の事態に潜む問題の所在を検討してみたい。

 第一に課題として挙げたいのは、上記のような発言に閣僚が挙(こぞ)って過敏になるほどに日韓関係が悪化し、冷静さを失っている状況である。日本での対韓意識の悪化は周知の通りであろうが、私は今回韓国に戻り、長年付き合いのある、いわゆる「親日派」の知己と話をした際、彼らの反応の悪さが気にかかった。

 詳しく話を聞いてみると、従来、日韓関係が悪くなった際に、日本は様々なチャンネルから関係改善に向けたシグナルを送ってきていたが、このところの日本からはそれが感じられないとのことであった。このまま事態が推移すれば、これまで日韓関係を下支えしてきた韓国側の窓口も徐々に狭まっていくことであろう。

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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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