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東京のコリアタウンで「反差別の訴え」 声高く

朴 順梨(パク・スニ)/フリーライター

 東京・新宿の街を国会議員、弁護士、音楽家、市民ら2000人以上が、「差別をやめよう!」「仲良くしようぜ!」の声とともに歩いた。先頭に立つのは、黒いスーツを身にまとったグループだ。1963年に米国でキング牧師らが黒人差別撤廃を訴えた「ワシントン大行進」をほうふつさせる。マーチングバンドが、米国の公民権運動を象徴する歌、We Shall Overcome を奏でる。在日韓国・朝鮮人などをターゲットにした過激な排外主義者らのデモなど、あらゆる差別に抗議する「東京大行進」が、9月22日に行われた。

AJWフォーラム英語版論文

 東京のど真ん中、新宿中央公園をスタート地点とする4キロのコースだ。、韓国料理店や韓流グッズの店が並ぶコリアンタウンでは、参加者たちがひときわ胸を張っているように見えた。

 ここでは2週間前に、韓国人学校に税金を投入し授業料を無償化することをやめるよう訴えるヘイトスピーチのデモがあったばかりだ。「韓国との国交を断絶しろ!」という怒号が飛び交い、沿道はデモに激しく抗議する人たちが声を上げた。そして彼らを制止する機動隊。現場は緊張と混乱に包まれていた。だが、22日の大行進では、沿道から行進の参加者に手を振り、楽しそうに写真撮影する人の姿があふれ、飛び入りで参加する人もいた。

 「こういう職安通りが見られるのって、嬉しいね」

 在日韓国人3世として生まれた私は、隣にいた友人に、思わずつぶやいてしまった。この半年間、ヘイトスピーチのデモの取材を続けていたが、耐えきれず「差別をやめろ!」の声を発していた。そうした場所の記憶が、塗り替えられた思いがしたからだ。

 制服姿の高校生や、チャンゴやケンガリなど韓国の楽器を鳴らす韓服(民族衣装)を来た男女のグループ・・・・・・。私は、ロックバンド「イースタンユース」のボーカルをつとめる吉野寿(よしのひさし)さんを見つけた。高校生の頃、私は、ライブハウスで歌う彼を見ていた。今はデモ隊に抗議する彼を、何度か新大久保で目にしている。

 「どんな属性の人でも、皆が混じっているのが俺達の生きる街の姿。子供から年配までの参加者達を見て『こうじゃなきゃ!』って思いました」

 パレード終了後、吉野さんは語った。

 午後3時過ぎ、ゴール地点に到着した大行進の参加者はそのまま解散。新宿の街は、夕方にはいつもの姿に戻っていた。

「一緒に生きよう」 勇気づけられた人も

「東京大行進」の参加者たち=朴順梨氏撮影「東京大行進」の参加者たち=朴順梨氏撮影
 参加者や、沿道の人たちには、記憶に残る1日となったことだろう。だがパレードだけでは、差別をなくすことは難しい。また「反差別がテーマなのに、日本政府が高校の授業料無償化の対象から、朝鮮学校を排除している問題へのメッセージがほとんどなかったのか」と、疑問を持った在日韓国・朝鮮人もいた。

 しかし「一緒に生きよう」の言葉に、勇気づけられた参加者も確実にいる。

 駒井真由美(こまいまゆみ)さん(39歳)は、日本人の父親と在日韓国人の母親との間に生まれた。好きだった男性から過去、「朝鮮人は(日本から)出て行け」と言われた経験を持っている。大阪府から深夜バスで駆けつけた駒井さんは、淡い紫色のチマ・チョゴリを着て、先頭のトラックの上で踊っていた。笑顔で語る。

 「日韓ダブルの自分が日本に存在することを、許して支えて下さる方々と出会えた。そのことで自分に誇りを持って生きていく、自信が得られました」

 「私も日本で生きていていい」。そう実感できたことで駒井さんは過去の自分を癒(い)やし、手放すことができたのだ。

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朴 順梨(パク スニ) ノンフィクションライター。在日韓国人3世として生まれ、その後、日本国籍を取得。早稲田大学卒業後、テレビ番組製作会社を経て、情報誌などの編集・執筆に携わる。共著に『韓国のホンネ』(竹書房)、著書に『離島の本屋』(ころから)がある。