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陸自の「水陸両用部隊」は米海兵隊の劣化コピーでいいのか(上)――不足する情報収集

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 防衛省は2014年度の概算要求で、陸上自衛隊の西部方面普通科連隊を中核とした、本格的な水陸両用部隊創設に向けた各種の予算を要求している。だが筆者が見る限り、米海兵隊の劣化コピーを目指しているようにしか見えない。防衛省は米海兵隊以外の水陸両用部隊に関して、詳細な調査や現地調査はしていないようだ。

 陸自は本年度予算で、米海兵隊が使用している水陸両用装甲車AAV7のAPC(装甲兵員輸送車)型の中古を評価目的で4輛調達し、来年度では指揮通信型と回収車型を同様にそれぞれ1輛ずつ要求している。

 ところが、来年度予算では海上自衛隊のおおすみ級輸送艦をAAV7の運用を前提に改造する予算も出され、海自は3隻のおおすみ級すべてに同様な近代化を施す。これらの予算措置を見る限り、AAV7導入は評価のためではなく、すでに採用を前提にしているとしか思えない。

日米共同訓練開始式で整列する陸上自衛隊員(奥)と米海兵隊員=2013年10月8日、滋賀県高島市日米共同訓練開始式で整列する陸上自衛隊員(奥)と米海兵隊員=2013年10月8日、滋賀県高島市
 AAV7の「試験的採用」にあたって陸自が他の候補を真剣に検討し、現地調査をした形跡は全くない。南西諸島では島々の周りがリーフで囲まれており、AAV7ではリーフの踏破性が十分ではないと指摘されているが、それが顧みられた形跡もない。

 またAAV7が使用されるのはせいぜい海岸堡までである。普通の装甲車輌の二回りほど大きく、陸上で愚鈍なAAV7の生存性は低い。

 このため米海兵隊ではAAV7を主に揚陸艦と海岸を往復して兵員を輸送するために使用しており、内陸では水陸両用の機能を有した装輪装甲車などを使用している。だが陸自はこの種の内陸で使用する装甲車の調達に関しては何の発表もしていない。

 来年度以降、「試験用に採用」されたAAV7の6輛が揃ってから評価が終わるまで、数年はかかるだろう。仮にAAV7が不適格という結論になれば、今度は別な候補を調達して再度評価をするのだろう。そうすれば、さらに数年を必要とすることになる。

 尖閣諸島問題をみれば水陸両用部隊の編成は焦眉の急であるはずだが、そのようなのんびりしたことでよいのだろうか。

 恐らく陸上幕僚監部もAAV7が役に立たなくとも、無理やり導入してしまうつもりだろう。そもそも思考停止状態であり、はじめからAAV7導入は決定事項だったのだろう。運用側はいい迷惑だ。それ以前に国会と納税者を謀ったことになる。これは「軍部の独断専行」であり、文民統制上も大きな問題だ。

 確かに陸自に水陸両用部隊が編成されれば、米海兵隊はそのカウンターパートとなる。だからといって米海兵隊の見よう見まねで、ろくにリサーチもせずに安易に水陸両用部隊を編成していいのだろうか。米海兵隊は約20万人の現役将兵と4万人の予備役を擁し、固定翼のジェット戦闘機や攻撃機まで保有し、独自の固定翼輸送機、ヘリ部隊、戦車まで有しているのだ。

 しかも地球の裏側で大規模な作戦を行うだけの兵站能力も有している。米海兵隊以外、世界のどこにも、このような規模と装備、兵站能力を有した水陸両用部隊は存在しない。

 ちなみに陸幕では西部方面普通科連隊の他にもう一個の水陸両用普通科連隊を編成し、この2つを基幹部隊とする旅団規模の部隊を編成する構想があるという。規模も予算も米海兵隊とは全く異なる。当然ながら運用も大きく異なる。米海兵隊をまねしようと思っても、できるものではない。せいぜい劣化コピーとなるのがいいところだ。

 防衛省はいつも国産装備の開発に際しては「我が国固有の環境と運用」に合ったものが必要、というお題目を唱えるが、防衛省は水陸両用部隊の編成にあたって、我が国の国情や国力に合致した水陸部隊を編成するための研究、すなわち諸外国の海兵隊や海軍歩兵などの水陸両用部隊を研究し、実地調査し、それをもとにした我が国独自の環境や運用を研究していない。

 2年前、陸自富士学校の「富士調査研究会同」での水陸両用部隊に関する発表は、業界団体の作った我田引水のレポートの丸写しのような代物であった。すでに米海兵隊ですら開発・調達費の高騰で開発を諦めた

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