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陸自の「水陸両用部隊」は米海兵隊の劣化コピーでいいのか(下)――自衛隊はプロ集団の英海兵隊に学べ

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 CTCRM(Commando Training Centre Royal Marines、英海兵隊コマンドウ訓練センター)は英国デボン州エクセター郊外のリンプストンに所在している。

 海兵隊側からは、前日に到着し、将校用の宿泊施設に宿泊するように指示された。宿泊施設はベッドルームと居間の2部屋からなっているが、学生寮のような趣で、シャワー、トイレは共同だ。夕食は将校用食堂でとったが、ドレスコードに則って将校らと同じくジャケット、ネクタイ着用だ。つまり将校たちは私服で食事をするときも背広にネクタイだ。ここに米軍や自衛隊との文化的な違いを垣間見た気がした。

 夕食時、同じテーブルには、訓練で来ていた佐官の予備役将校がいた。彼はスイスのプラベートバンクで働いているという。金融機関で高給を食んでいるであろう立場で、予備役に留まり厳しい訓練を毎年受けているのだ。

 翌日は基地の専任参謀である、アンディ・プライス中佐から、英海兵隊および基地の概略の説明を受け、次いで各訓練過程の担当者から説明を受けつつ見学した。

アンディ・プライス中佐=撮影・筆者拡大アンディ・プライス中佐=撮影・筆者
 「英海兵隊コマンドウは上陸先、あるいは敵地奥深くに進出し、小規模な単位で活動することが前提となっています。これは現在でも変わりません。必然的に少数精鋭となり、そのため人的な質を高め、また少人数の部隊でも任務を達成するために下士官に対しても強いリーダーシップを求めています」とプライス中佐は語る。

 CTCRMは、募集された兵士予備軍の選別、コマンドウ訓練と呼ばれる32週間の新兵訓練と64週間にわたる将校訓練の他、各種専門コースをもち、英海兵隊の教育の拠点となっている。

 プライス佐によると、まず英海兵隊のリクルートで重要視されるのは身体的な能力ではなく、メンタル的な強さと基礎的な知的水準であるという。

 それは海兵隊が小隊や分隊という少人数の部隊で、敵勢力圏内での作戦はもちろん、極地やジャングル、山岳地帯など、様々に苛烈な自然環境下で行動することが前提になっているコマンドウだからだという。このような部隊では、将兵は精神的なタフネスさが何より重要であり、将校だけではなく、下士官にもリーダーとしての資質が要求される。

体力訓練=撮影・筆者拡大体力訓練=撮影・筆者
 あえて誤解を恐れずにいえば、身体は入ってから鍛えられるが、持って生まれたメンタルや学力の資質は鍛えられないということだろう。

 新兵のリクルートにおいて、英軍では教育レベルを9歳程度(概ね小学校卒業レベル)、中学校卒試験の下級(GCSE、Certificate of Secondary Education D-G)、上級(GCSE A-C)に分類している。陸軍の場合、英語力が9歳レベルが45パーセント、中卒下級が41パーセント、中卒上級が14パーセントで、数学的能力は9歳時レベルが42パーセント、中卒下級が16パーセント、中卒上級が42パーセントとなっている。

 対して海兵隊は英語力が9歳レベルはゼロ、中卒下級が17パーセント、上級が83パーセント、数学的能力も9歳レベルはゼロで、中卒下級が22パーセント、中卒上級が78パーセントである。つまり知的水準、基礎学力ともに陸軍に比べて圧倒的に高いことがわかる。

 一般に海空軍では艦艇や航空機など高度なシステムを運用するため、兵員には技術的な素養が必要とされ、陸軍よりも高い知的水準が求められるのが常だが、英海兵隊はその海空軍に比べても知的水準が高い。将校にしてもオックスフォードなど有力大学の出身者が少なくない。

 前にも述べたが海兵隊は少数精鋭であり、水陸両用戦闘能力に加え、ヘリボーン作戦、艦隊の防衛や臨検、沿岸や河川のパトロール、極地戦、山岳戦、ジャングル戦など多用な任務をこなす必要がある。

 また緊急展開部隊でもあり、真っ先に戦闘に投入される。その好例がフォークランド紛争であり、イラク戦争、アフガンでの戦闘である。特にアフガンでは英派遣部隊の中核兵力となっている。

 さらにアデン沖・インド洋、ホルムズ海峡での海賊対処、カリブ海での臨検活動、アルバニアやアラブ首長国連邦、オマーンなどの軍隊にトレーニングをしており、人道援助活動などにも投入されている。

 英海兵隊はこれらの多様かつ複雑な任務をこなさなければならない。このため高い学習能力や知的水準が要求されるのだ。

 ちなみに海兵隊の兵員は英軍全体の4・4パーセントに過ぎないが、英軍の特殊部隊への人員の43パーセントが海兵隊の出身となっている。この一点を見ても海兵隊の人的レベルがいかに高いかということが理解できよう。

新兵訓練生60名は全員ここに寝泊まりする=撮影・筆者拡大新兵訓練生60名は全員ここに寝泊まりする=撮影・筆者
 また英国では海兵隊のリーダーシップをビジネス用に応用した本や、海兵隊のトレーニングをもとにしたフィットネスの書籍も出版されており、英国社会では組織として海兵隊が高く評価されていることがわかる。

 新兵訓練は海兵隊コマンドウ訓練と呼ばれ32週間にわたる。歩兵、そして海兵隊員としての基礎的な技術と知識を学ぶ。訓練は60名の新兵で2週間ごとに開始され、彼らは32週の間、同じ大部屋で寝起きすることになる。なお、専任の伍長が1名つき、寝起きを共にする。合格率は6割程度となっている。

 その他、CTCRMでは下士官用、将校用の多彩なコースがあり、スペシャリスト教育隊は麾下(きか)の歩兵支援中隊、装甲支援中隊、通信&情報システム支援訓練中隊、山岳戦リーダー&戦闘情報がその任にあたっている。

 上級将校用の教育では中級地上戦指揮幕僚コース(少佐昇進のために必要な資格となっている)、上級指揮幕僚コースがあり、大佐以上では高級指揮幕僚コースCTCRMはなく、英国国防大学において行われる。

パーカーホール=撮影・筆者拡大パーカーホール=撮影・筆者
 興味深かったのがパーカーホールと呼ばれるエクササイズ・リハビリテーション・センターだ。これは戦闘や訓練で負傷したり、精神的な問題を持った将兵たちを任務に復帰させるためのセンターだ。
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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