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モンゴルをめぐる点と線――朝鮮総連中央本部・再競売事件の迷宮

小北清人 朝日新聞湘南支局長

 「この件、なんだか、ブラックの臭いがすごくするね……」(北朝鮮や朝鮮総連に詳しい関係者)

 いかにも、というか、やっぱり、というか、「総連の本山」こと朝鮮総連中央本部ビル(東京都千代田区)の競売問題が、またも複雑怪奇な様相を見せてきました。

 10月17日、東京地裁民事執行センター(東京都目黒区)2階開札場。集まった記者たちは耳をすませて執行官の発表を待ちました。あのいわくつきのビルをどこが落札するのか、落札企業から総連中央はビル退去を迫られるのか、あるいは賃貸借契約を結ぶなどして、ビルにとどまり続けるのか――。

 午前11時、執行官が読み上げたのは、予想を覆し、聞いたこともない会社の名前と、常識外れといえる高額な落札価格でした。

 「アバール・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー(以下アバール社)、50億1千万円」

 アバール社はモンゴルのウランバートルにあり、2013年1月に設立されたばかりで資本金わずか6万円。活動実態のない会社でした。

 朝鮮総連側の抵抗で、遅々として進まなかった総連中央本部ビルの最初の競売が、ようやく行われたのはこの3月でした。落札したのは総連トップと旧知の関係の、「永田町の怪僧」こと池口恵観法主が代表の宗教法人「最福寺」。落札価格45億1900万円は破格なものでしたが、期限までに全額を納められずに落札は流れ、今回が2度目の競売でした。

 しかしフタを開けてみれば、前回を上回る超破格の落札価格で、しかも正体不明のモンゴル企業が――。

 「怪僧」の次は、「モンゴル」だったのです。

 東京地裁は22日に予定していた、アバール社への売却審査を延期しました。理由は明らかにされていません。異例なことです。前回の競売では、最福寺の落札を認めながら、結局無効になったため、今回は慎重を期しているのかもしれません。地裁はアバール社についての調査と資料提供を、日本政府を通じてモンゴル政府に依頼したようです。

 日本で騒ぎが大きくなるや、行方をくらませていたアバール社のモンゴル人社長が現地で緊急会見を開いたのは24日。社長はこう答えました。

 「会社は今年1月に設立した。外国の投資ファンドから融資を得て入札に参加した。あくまでもビジネスが目的だ。詳しいことは落札が正式に決まった後で報告する。日本、北朝鮮、モンゴルのどの政府とも、どこかの政治団体とも関係ない」

 発言の真偽のほどは、現時点ではわかりませんが、「入札資金は外国の投資ファンドの融資で」というなら、当の投資ファンド自体が入札に加わればいいだけのこと。アバール社は「真の入札者」を隠すためのダミーでは? との疑念がぬぐえません。そもそも同社の設立自体、総連本部ビル落札が目的ではなかったのか? 同社が設立されたのが、総連ビル1回目入札のわずか2か月前のことだからです。

朝鮮総連中央本部ビルの落札に関して、元横綱朝青龍関の名前が……朝鮮総連中央本部ビルの落札に関して、元横綱朝青龍関の名前が……
 会見で、アバール社社長は興味深い発言をしています。彼はモンゴル出身の元横綱・朝青龍氏の親戚だと認め、

 「彼は直接、入札に関わっていない。アドバイスを聞いたりはするが」

 と述べました。朝青龍氏の実兄(アバール社社長の妹の夫)は、いま、モンゴルで国会議員になっています。

 現役時代も盛んな事業欲で知られた朝青龍氏。彼は2010年、力士廃業後に北朝鮮を訪れ、「自分もチャンスがあればモンゴルと北朝鮮とのビジネスに加わりたい」と話したといいます。

 現役時代から、いわゆる「その筋」との関わりが指摘されたこともある彼ですが、朝鮮総連ともつながりがあります。2011年、彼は朝鮮総連系の朝鮮大学(東京都小平市)創立記念日に同校を訪問しています。

 朝鮮総連をよく知る関係者の話。

 「朝青龍を朝大に連れて行ったのは、

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