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安倍昭恵氏の日韓交流への批判に思う――大勢の意識に目を向けよう

金恵京 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

 10月19日、安倍首相夫人の昭恵氏が地元・山口県下関市で行った講演での発言が注目を集めている。彼女は9月に東京の日比谷公園で行われた「日韓交流おまつり」に参加したとフェイスブックに投稿したところ、関係が悪化している韓国に対して友好姿勢を見せたことに批判が寄せられたという。

 それを受けて、昭恵氏は「何を言われようがお隣の国。特に下関は釜山と姉妹都市でもあり、本当に近い所なので、できる限り親しくしていけたらいいなと思う」と述べた。

 私はその発言を聞いた時、頼もしいと思うと同時に、愕然とした気分にも襲われた。一国のファースト・レディーが隣国との交流イベントに出席し、それを批判されてしまう状況は通常では考えられない。それも、日韓両国は多方面にわたって関係の深い国同士である。日本のコンビニやスーパーではキムチが常備されているし、韓国の国民食の一つキムパプ(海苔巻き)には日本から伝わった沢庵が欠かせない。

インドネシア・バリ島で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)参加国首脳との記念撮影で、韓国の朴槿恵(パク・ク・ネ)大統領と笑顔で言葉を交わす安倍昭恵さん=2013年10月7日拡大インドネシア・バリ島で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)参加国首脳との記念撮影で、韓国の朴槿恵(パク・ク・ネ)大統領と笑顔で言葉を交わす安倍昭恵さん=2013年10月7日
 もちろん、食にとどまらず、経済、言語、人種等々、共通点を挙げればきりがないのが、日本と韓国なのである。それにもかかわらず、なぜ友好行事に出席したことにすら批判が集まる事態が発生してしまったのであろうか。

 現在、日韓共に相手国に対して、極端な見方を持つ者が少なくない。

 例えば、「日韓交流おまつり」の2週間ほど前に東京でのオリンピック招致が決定したが、日本のネットや一部メディアでは、韓国ではそれに対して批判が高まっており、招致活動を妨害したり、辞退を求めているといった言質が見られた。

 一方、韓国においても日本が軍国主義的な姿勢を強めているとの主張が幅を利かせることも多い。

 そうした主張には、日韓を行き来し、両国の一般の人々と気軽に話している私からすると強い違和感がある。韓国国内では隣国日本のオリンピック開催決定を喜び、2018年2月に平昌(ピョンチャン)で行われる冬季オリンピックを控える自国と共に頑張っていきたいとの声で溢れていた。また、日本に居る私に対しても「日本にオリンピックが決まって良かったね」と祝福する韓国からの電話やメールが招致決定日には殺到した。

 そして、日本に目を移してみれば、普通に生活している限り、「戦争を望む」とか「軍備の増強を」と真顔で喋る人には出会うこともまずない。戦争を嫌い、徴兵もご免だと考え、話し合いで解決しようとの発想が最初に浮かぶ人が大多数である。軍事色を強めようと画策する人もいるだろうが、それは庶民に全く響いていないのが現状であろう。

 そうした状況にもかかわらず、両国で取り上げられる声は普段聞かないようなものばかりなのである。ただ、そうした主張はその過激さ故に注目を集める。両国の関係が悪化している現在であれば尚更、「やっぱり相手は自分達の思っていた通り、偏った考えを持ち、こちらを敵視しているのだ」と反発に同調する主張に力を与えてしまう。

 私自身、両国でそうした立場をとる人と会う機会もあり、批判を受けることも少なくない。両国人共に「なぜ、あちらの肩を持つのか」という具合である。そして、彼らの話を詳しく聞いてみると、大抵相手国に対する情報は多いものの、そのバランスは悪く、実体験やその国の人と話した経験が十分ではない。彼らの頭にある相手国は「一体いつの時代の話をしているのだろう」とか「なぜ、極端な姿だけで判断するのだろう」との思いを抱かずにはいられないものなのである。

 もちろん、各国共に自らの歴史の中で省みなければならない点はあるし、何億、何千万と人口を抱えれば常識的に見て逸脱してしまっている考えを持つ者も存在する。しかし、我々が最も重視すべきなのは今を生きている大多数の人々が何を考えているかではないだろうか。

 本来、両国関係に対する議論はそこから出発しなければならないにもかかわらず、現在の日韓両国は最初から極端な一面のみを見て、相手を評価してしまっている。それでは互いに判断を誤るばかりである。

 話を昭恵夫人に戻そう。彼女が韓国に関心をもったきっかけは韓流ドラマだという。 ・・・ログインして読む
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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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