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機動戦闘車は必要か(上)――島嶼防衛にもゲリラ・コマンドウ対処にも不向き

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 10月9日、防衛省技術研究本部は相模原の陸上装備研究所において、機動戦闘車の試作車輌を公開した。平成20年度から開発されており、26~27年にわたって実用試験が行われ、28年に装備される予定となっている。

 防衛省は、「機動戦闘車は戦闘部隊に装備し、多様な事態への対処において優れた機動性及び空輸性により迅速に展開するとともに、大口径砲により敵機甲戦闘車輌および人員に対するために使用する」としている。つまり戦車戦は想定しておらず、島嶼防衛では敵の軽戦車以下の装甲車輌、ゲリラ・コマンドウ対処では味方の普通科に対して直接照準による火力支援をするとしている。

 だが筆者は、機動戦闘車は島嶼防衛にも普通科の火力支援にも不向きで、装備化する必要はないと考える。そもそも機動戦闘車は運用側の確固たる要求からではなく、戦車の大幅削減に際して機甲科の失業対策として考案されたものだ。

 かつて陸上自衛隊の戦車は1200輌あったが、ソ連崩壊後、900輌になり、その後600輌に、現大綱では400輌にまで減らされている。島嶼防衛も、ゲリラ・コマンドウ対策も機甲科の勢力維持のための方便にすぎない。

 機動戦闘車は戦闘重量が約26トン、全長8.4メートル、全幅2.98メートル、全高2.87メートルとなっている。従来、自衛隊の装輪装甲車の全幅は道路法の制限で2.5メートル以下に抑えられてきたが、機動戦闘車はこれを大きく超えることとなった。エンジンは570馬力のディーゼルエンジンで、最高速度は時速100キロとなっている。主砲は国産の新規開発の105ミリ施線砲であり、同軸機銃は74式7.62ミリ車載機銃で、砲塔上に12.7ミリ機銃が装備されている。これはいわば装輪戦車であり、他国で言う戦車駆逐車のカテゴリーに入る。

 島嶼防衛で対処するのが戦車ではなく、せいぜいが軽戦車でいいならば105ミリ砲は必要ない。30~40ミリの機関砲をもった歩兵戦闘車で十分だ。ならば、下車歩兵も搭乗できる、より汎用性が高く、柔軟な運用が可能である装輪式の歩兵戦闘車の方が向いている。あるいは76~90ミリ砲で十分だ。

 イタリアのオトーメララ社が開発中の76ミリ砲塔システム、ドラコは76ミリ砲を採用しているが、直接・間接照準により射撃が可能で、対空射撃もこなす。さすがに対空射撃まで含めるとレーダーなどのコストがかかり過ぎるが、直接・間接照準ができれば運用柔軟性が広がるし、砲兵の仕事も1両でこなせるでの、島嶼防衛では便利だろう。

 補給の面でも問題がある。島嶼防衛に際しては補給が極めて限られる。重くかさばる105ミリ砲弾を十分に補給するのは難しい。当然ながら搭載量も少ない。この手の車輌は通常徹甲弾や榴弾など2~3種類の弾種を搭載している。仮に20発の徹甲弾を使いきってしまい、そこに装甲車輌が来たら、榴弾など威力が不十分な弾種で戦うしかない。

 仮に105ミリ砲ならば搭載量が40発程度だが、76ミリ砲ならば60発程度は搭載できるだろう。砲弾の搭載量も非常に重要だ。これはゲリコマでも同じで、立てこもったゲリラやコマンドウを掃討するならば建物などをしらみつぶしにしていく必要がある。105ミリ砲弾では弾数がすぐに不足するだろう。

 105ミリ砲はゲリコマ対処にも向いていない。人口の7割が都市部に集中する我が国固有の環境に鑑みれば、105ミリ砲は威力が大きすぎ、副次被害が拡大する。ゲリラを排除できてもその一帯が瓦礫の山となる可能性が増える。

 イタリアの偵察戦闘車センタウロと並んでこの種の装甲車輌の嚆矢とされている南アフリカのロイカットは76ミリ砲を搭載している。これは南部アフリカでは敵の戦車はせいぜい旧式のT-62であり、76ミリ砲でも全方位から十分に撃破が可能だったからだ。

 筆者はメーカ-であるデネル・エアロスペース・システムズ社やロイカット開発のプロジェクトをマネジメントをしたアームスコー(国営兵器会社)に何度も話を聞く機会があった。それによると、当初105ミリ砲を搭載する案があったが、76ミリ砲でも威力は十分であり、また長駆してアンゴラなどで戦うことを前提としていたので、105ミリ砲弾は補給が難しく、また搭載量が少ないので、肝心な時に弾切れになりかねないとのことで、76ミリ砲が選択されたとのことだ。

 対してセンタウロは、冷戦時代、慢性的な財政難のイタリアで、南下してくるソ連軍に対しては少数の戦車で対抗し、高速道路が整備されている南部のイタリア半島は、安価な「装輪戦車」で対処しようという「ローハイミックス」の思想で開発された。ゆえに105戦車砲が採用されたわけだ。

 2つのケースともその国固有の環境と運用に基づいて開発されている。防衛省は国産装備を開発する際に「固有の環境と運用」を理由にするが機動戦闘車にはそれがない。

 ゲリコマ対処であれば、建物や陣地に立てこもった敵を排除するためにはイスラエルのIMI社が開発したAPAM-MP-T(Anti-Personnel/Anti-Materiel)やラインメタル社のHEAT-MP(High-Explosive Anti-Tank Multi-Purpose)と呼ばれる多目的弾が必要だ。

 従来の榴弾は本来野戦で破片をばら撒いての殺傷を目的としており、建物や陣地に対して十分に威力的ではない。これは昨今のイラクやアフガニスタンの戦闘で大きな問題となり、欧米やイスラエル、中国などでも多目的弾の開発・装備化が進んでいる。

 多目的弾は建物や陣地だけではなく、対人や対装甲車輌、ヘリコプターなどにも有効だ。我が国では国内メーカーが自社研究しているという。

 ところが機動戦闘車の開発に際して、この種の新型弾種は開発されて来なかった。このことは機動戦闘車公開時の記者会見で筆者が担当者に質問し、確認している。これは当初から74式用に生産されている105ミリ砲弾が余るので、それを使えばいいという安直な選択からであり、真摯に主砲を選び、弾種を考慮した跡は見えない。

 これは10式戦車も同じだ。ゲリコマ対処重視といいながら、多目的弾は開発せずに、新型の徹甲弾を開発している。ロシアの戦車にしろ、中国の戦車にしろ、現在の120ミリ徹甲弾で十分に対処が可能だ。しかも両国とも我が師団規模に対して揚陸を行う本格的な本土侵攻の能力はまったく有していない。

 これは、ありもしない北海道の大草原でロシアや中国の戦車と機甲戦を戦うという、「本土決戦」を夢想して徹甲弾を開発したとしか思えない。国費を自慰行為に浪費したようなものである。これを見ても陸自のゲリコマ対処が単なる予算獲得のための方便であることが透けてみえる。

 ゲリコマ対処で戦車砲が必要ならば

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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