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機動戦闘車は必要か(中)――脆弱な防御力

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 機動戦闘車のC-2輸送機による空輸にしても画餅である。

 まずC-2のペイロードは30トンだったが、機体重量が重くなり、現在は26トン程度と言われている。しかも量産が決まった後もドアが飛んだとか、多くのトラブルを抱えているという。まず、C-2で本当に空輸が可能なのかの実験もこれからだ。

 空輸が可能だとしてもC-2の数が足りない。C-2は30機程度調達されると言われているが、それも定かではない。当面、毎年2機程度が調達されるだろうから、10年後ならば20機程度になる。だが最後に発注した機体はその時点では完成していないし、機体の稼働率も100パーセントではない。稼働できる機体はせいぜい15機程度だ(5年後ならばその半分だ)。

 15機程度だと機動戦闘車一個中隊とその支援部隊(回収車、弾薬車輌、燃料、弾薬)を運ぶためには最低でも2往復は必要だ。だが島嶼防衛で初動での輸送が必要なのは空挺部隊や普通科(歩兵)、施設科(工兵)の装備、武器弾薬、食料、飲料水や増員分などを運ぶので精一杯で、重くて場所をとる機動戦闘車に機体を回す余裕はとてもないだろう。

 また、これから極めて高額のF-35A戦闘機が毎年一定数調達されるようになれば、これに予算が圧迫されてC-2の調達数が減じる可能性もある。しかもC-2は開発費も調達単価も大幅に増大し、調達総数自体が大きく減らされる可能性もある。

 そもそもC-2は事実上軍用の戦術輸送機ではない。C-2は舗装された2000メートル級の滑走路がないと離着陸できない。つまり空港でしか運用できず、離島の急造の滑走路では使えない。南西諸島では2000メートル級以上の滑走路があるのは下地島(3000メートル)などごくわずかだ。つまり空輸は下地島や沖縄本島の空港までで、以後は船舶による輸送が必要だ。

 機動戦闘車の戦術的な空輸を行うのであれば、空自の保有するC-130輸送機などで空輸する前提で、重量を17トン程度に抑える、あるいはC-2の調達をあきらめボーイングのC-17やエアバスミリタリーA400Mなどのよりペイロードが大きい「軍用輸送機」を採用すべきだった。ちなみにC-17はペイロードが70トンもあり、機動戦闘車ならば一度に2両を空輸でき、不整地での運用が可能である。調達価格はC-2と同程度か、1.5倍程度に過ぎない。

 また機動戦闘車はネットワーク化を前提にしていない点でも落第だ。防衛省、技術研究本部のお披露目の記者会見で筆者はこの点を質問したが、ネットワーク化は今後の課題だという。

 この種の戦車駆逐車に関してのみならず、大量に配備するAPC(装甲兵員輸送車)や軽装甲車の類でも、近年では先進国はもとより、チェコ、ポーランド、トルコ、中国といった国々ですらはじめからネットワーク化を前提として開発している。

 陸上自衛隊も遅ればせながら、10式からネットワーク化を始めたが、機動戦闘車にそれを付加しなければ10式との連携も、他の部隊との連携もできない。当然ながら普通科(歩兵)とも連携がうまくできない。

 このことは特にゲリラ・コマンドウ対処では致命的な欠陥となる。であれば、当初からネットワーク化を前提に開発してしかるべきだった。

 常識的に考えれば、10式のネットワークシステム、火器管制装置、ナビゲーションシステム、光学電子センサー、その他のセンサー類などをそのまま流用すべきだ。そうすれば訓練や兵站も10式と共用できるし、調達コストも下げられる。例えば10式が年に15輌調達され、機動戦闘車も15輌調達されるのであれば、生産規模は2倍になる。また戦時になればパーツの融通も効く。

 実際、イタリアのセンタウロは主力戦車アリエテと同じ火器管制システム、センサー類を採用している(ただ、センタウロの開発当時はネットワーク化はまた始まっていなかったが、現在のセンタウロはネットワーク化されている)。

 なぜ10式戦車のシステムをそのまま導入しなかったのか。恐らく理由は2つある。

 ひとつはできるだけ単価を安くするためだ。センサー類のグレードを落とし、ネットワーク化しなければ、その分単価は下がることになる。

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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