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携帯盗聴事件――アメリカがメルケルを警戒する理由、メルケルが怒った理由

佐藤優 作家、元外務省主任分析官

 米国とドイツの関係が緊張している。米インテリジェンス機関により、ドイツのアンゲラ・メルケル首相の私用携帯電話が盗聴されていた疑いが強まったからだ。

<ドイツ政府は(10月)23日、メルケル首相の携帯電話が米情報機関に盗聴されていた可能性が高いとして、首相がオバマ大統領に説明を求めたことを明らかにした。独政府のザイベルト報道官が発表したもので、声明で「ドイツ政府は、メルケル首相の携帯電話が米情報機関に監視されている可能性があるとの情報を得て、即座に米政府に照会し、全面的な解明を求めた」と明らかにした。
 それによると、メルケル首相はオバマ大統領に電話で「ドイツと米国のような長年の友人の間で、このような監視があってはならない。(真実ならば)信頼を破る行為で、重大な結果を招くことになる」と抗議したという。
 これに対し、米ホワイトハウスによると、オバマ大統領は「首相の通信を監視してはいないし、これからもしない」と約束した。ただ、過去に監視したことがあるかどうかについては言及していない>(10月24日『朝日新聞デジタル』)

 続報によると、メルケル氏の携帯電話は、同紙が野党の党首であった2002年から盗聴されていた。

<ドイツのメルケル首相の携帯電話が米情報機関に盗聴されていた疑惑で、独誌シュピーゲルは(10月)27日、メルケル氏の携帯は2002年から情報収集の対象になっていたと報じた。オバマ米大統領は今月23日の電話会談でメルケル氏に「(自分は)知らなかった」と釈明したとされるが、本当に知らなかったか、疑いも出ている。
 シュピーゲル誌によると、米国家安全保障局(NSA)と米中央情報局(CIA)が在ベルリンの米大使館を拠点にする「特別収集部局」で盗聴を実施。メルケル氏の携帯は02年から対象のリストに載せられていたという。メルケル氏は当時、野党の党首だった。携帯の盗聴は、オバマ氏の今年6月の訪独直前まで続いていたという。 
 この特別部局は世界中の約80カ所の拠点で活動しており、欧州ではベルリンのほかにパリやローマなど19カ所に拠点を持つ。日本を含むそれ以外の地域については明らかにされていない。職員は現地の米大使館や領事館で外交官の肩書で活動しているとされる。
 同誌は、NSAの情報収集を内部告発したCIAのエドワード・スノーデン元職員からの極秘文書をもとに調査したとしている。
 また、同誌などの独メディアは、メルケル氏が23日にオバマ氏に盗聴疑惑について電話で説明を求めたとき、オバマ氏は「知っていたらすぐにやめさせていた」と謝罪した、と伝えた。
 これに対し、大衆紙ビルト日曜版は27日、米情報筋の話として、オバマ氏は10年にNSAからメルケル氏の盗聴について知らされ、許可した、と伝えた。また、ブッシュ前大統領が02年に当時の独首相シュレーダー氏に対し、情報収集を始めさせたという。シュレーダー氏がイラク戦争に反対したことがきっかけとされる(ベルリン=松井健)>(10月28日『朝日新聞デジタル』)

 ドイツにとって米国はNATO(北大西洋条約機構)に加盟する重要な同盟国だ。米国が、諸外国の要人の電話や通信を傍受していることは公然の秘密だ。従って、この種の問題に関する報道がなされても、表では「報道には一々反応しない」とノーコメントの姿勢を貫き、外交もしくはインテリジェンスのチャンネルで「いったいどうなっているのか」と照会するのが、同盟国間の通常の対応である。

 しかし、今回、メルケル独首相は、オバマ米大統領に直接抗議し、しかもその内容を報道官を通じてマスメディアに公表した。これは同盟国間の外交常識に照らして異常なことである。メルケルが怒り心頭に発しているからだ。

 インテリジェンスの手法で用いられた情報は、実際に活用されなければ意味がない。メルケル首相の携帯電話の盗聴によって得られた情報は、米独首脳会談の準備に活用されたと推定するのが合理的だ。

 有力な同盟国首脳に対する通信傍受は、発覚した場合、深刻な外交問題を引き起こす。仮に米大統領の了承を得ずにNSAがメルケル首相の携帯電話を盗聴していたとするならば、NSA長官は直ちに引責辞職に追い込まれる。そのような事態に至っていないことは、オバマ大統領の「知らなかった」「知っていたらすぐにやめさせていた」という発言の真実性を疑わせる十分な根拠になる。

 メルケルは、盗聴に関して、強い忌避反応を持っている。それは彼女の生い立ちと深く関係している。 ・・・ログインして読む
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筆者

佐藤優

佐藤優(さとう・まさる) 作家、元外務省主任分析官

1960年生まれ。作家。元外務省主任分析官。同志社大学神学研究科修士課程修了。外務省では対ロシア外交などを担当。著書に『宗教改革の物語――近代、民族、国家の起源』(KADOKAWA)、『創価学会と平和主義』(朝日新書)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『佐藤優の10分で読む未来』(新帝国主義編、戦争の予兆編、講談社)など多数。

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