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機動戦闘車は必要か(下)――高いコスト

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 陸上自衛隊は来年度予算の概算要求で現用の96式装甲車の後継として8輪装甲車の開発予算を盛り込んでいるが、この連載の中編で述べたように、機動戦闘車をベースにした車輌は開発できないのである。

 ファミリー化ができない装甲車は、コンポーネントや訓練、教育、兵站が共用できないので運用コストがどうしても高くなる。他国では車体を共通化して調達・運用コストを下げる努力をしているが、陸自はしていない。

 イタリアのセンタウロからは歩兵戦闘車フレッチアや兵員輸送車型などの派生型が開発され、中国のVN-1は歩兵戦闘車がベースだが戦車駆逐車型はもちろんAPC(装甲兵員輸送車)、指揮通信車、回収車などの派生型が提案されている。

 ポーランドはフィンラドのパトリア社の8輪装甲車をICVなどに採用しているが、これにベルギーのCMIインターナショナル社の105ミリ砲塔を搭載した車両を開発している。同様にトルコも自国開発のAMRAにこれまたCMIインターナショナル社の105ミリ砲塔を搭載したモデルを発表している。

 対して陸自は調達数が少ない装甲車輌を別々に開発している。これでは1輌あたりの開発コストや調達・運用コストが高くなる。大抵、陸自の装甲車輌の調達単価は他国の3倍あるいはそれ以上になっている。89式装甲戦闘車は調達単価が6~7億円と諸外国の戦車並みでわずか68輌しか生産されず、唯一の機甲師団である第7師団すべての普通科連隊に装備することすらできなかった。96式120ミリ自走迫撃砲はたった24輌にすぎない。

 これらは北海道の一部の部隊にしか装備されていない。このため筆者は北海道限定銘菓になぞらえて「白い恋人」と呼んでいる。

 実は防衛省でも90年代に個別最適化の弊害を打破するために、将来の装輪装甲車ファミリー化の研究、「将来装輪戦闘車両」および「将来装輪戦闘車両(対空)」が計画された。これはコマツを主契約社として2003(平成15)年から2008(平成20)年にわたって行われた。

 この構想の中には105ミリ砲を搭載した戦車駆逐車型、すなわち機動戦闘車のような車輌を含めて、多数の派生型が提案していた。ところがこれが装備化に活かされることはなく、現在の機動戦闘車が全く別個に開発された。

 これまで装輪装甲車はコマツ、装軌装甲車は三菱重工と棲み分けされてきたが、機動戦闘車の契約は三菱重工が獲得した。つまり装輪装甲車開発の経験もノウハウもない会社が、いきなり戦車砲の反動を制御するという技術的な難度の高い装輪装甲車を担当したのだ。工学的な知識を持った人間であれば、技術的な完成度を疑ってかかるのが当然だ。常識的に考えれば、装輪装甲車開発の長い実績をもつコマツに開発させる方を選ぶだろう。

 穿った見方かもしれないが、

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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