メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

アベノミクスで食材偽装が増える?

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 阪急阪神ホテルズ系列のレストランで食材偽装が発覚して以来、ホテルオークラや三越など有名ホテルやデパートなども枕を揃えて討ち死、という状況になっている。しかし報道を見ていると食品業界の問題の本質を見ておらず、表層的なものが多いように思う。

 敢えて誤解を恐れずに言えば、食品業界のモラルは昔からそれほど高くない。

 筆者の弟はかつて食品商社に勤務していたことがあり、業界の内情をよく聞いてきた。某有名ホテルチェーンは「食材は腐ってさえいなければ安いほうがいいです」とか、某唐揚げチェーンは「ウチの国産ハーブチキンってアレ、インチキなんです。本当はブラジル産ブロイラーです」とか、そのような話を山ほど聞いてきた。

 また筆者と弟は某食品商社が家鴨を野生の鴨と偽って輸入していることを知り、当局に通報した。野生の鴨は渡り鳥であるために、検疫が必要なく、関税も0パーセントで輸入コストが安いのだ。その会社は税関から2億円以上の追徴金を取られ、新聞にも載った。

 むろん、まじめにやっている企業や社員も数多く知っている。だが業界として見れば、筆者が知る限り不動産業界にモラルの低い企業が多いのと同じく、一般にモラルが低い業界なのだ。それを気に病んで業界を離れる人も少なくない。かつてロイヤルホストが上場しようとした時、「水商売が上場なんてとんでもない」という批判があった。これには偏見も含まれているが、業界の体質にも問題があったことは事実だ。

 すごく簡単に言うと、食品業界のモラルが低いのは過当競争で従業員の待遇が悪いからだ。食品業界でも飲食店は小資本で起業しやすいこともあって、後から後から新規参入組がはいってくる。業種別で言うと大卒の新卒者の離職率が高いのは外食業界とホテル・宿泊業界だ。

 ホテルやレストランの現場は、上からは、売り上げを増やせ、なおかつ原価を下げろと要求される。またデパートの食品売り場にテナントとして出店する企業はかなりの保証金を要求されたり、高額の家賃とは別にかなりの額のマージンを取られる(WEBRONZA「店舗・事務所の出店時に必要な保証金が過大すぎる」(2011/02/01)

 筆者の知り合いの蕎麦屋は優良企業として名高い某大手スーパーに出店していたが、スーパーからは家賃以外に売り上げの15パーセントも頭から取られるので、繁盛はしていたが商売がきついので、店を他人に譲って撤退した。大型商業施設に出店すると保証金の負担は高いし、コミッションも高いので利益率が低い。だから出店は体力がある大手チェーン店がどうしても多くなる。それでも人件費を安く抑えなくてはならない。が、当然従業員の質にも影響してくる。また売り上げを増やすためには、食材の原価を削るしかない。

 ちゃんぽんのリンガーハットはかつて値下げ競争に巻き込まれて、ひたすら値下げを繰り返したが、質も下がり、売り上げは減っていった。だが発想を転換し、食材原価を上げてでも国内の新鮮な野菜を使うなど質を向上させ、結果として業績は持ち直した。

 だがこのようなケースは少なく、ひたすら値下げ競争を繰り返し、体力を消耗している企業が少なくない。消費者の安値志向がこれに輪をかける。牛丼業界などその好例だ。個人経営の牛丼店はこれに巻き込まれて廃業するところも出ている。これがデフレを加速する一因と言ってもいいだろう。

 最近深刻なのは、安倍政権の露骨な円安誘導だ。ドルにしてもユーロにしても概ね3割ほど上がっている。マスメディアも円高では景気が悪く、円安になれば景気が良くなるというステレオタイプの報道を行うが、メディアがこのような話を垂れ流すから、なんとなく世論もそんな気になってアベノミクスを支持したのだ。

 だが、これは一種の迷信である。 ・・・ログインして読む
(残り:約1947文字/本文:約3509文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

清谷信一の記事

もっと見る