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[2]あったことをなかったことにすること

whitewash

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

 もう1カ月以上前に日本から遠く離れた場所(アリューシャン列島)で書いた以下の文章を寄稿するのは、読み返してみてもまだ賞味期限が切れていないなと思うからだ。この文が書かれたのは5月中旬から下旬にかけてである。いまの状況はもっと悪くなっている。

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 日本から遠く離れた場所にいる。衛星電話以外に外部と交信する手段がない。インターネットもEメールもできない。四方は見渡す限り、海、海、海。カモメとアホウドリと、ごくたまにクジラやシャチ、イルカが遊びに来る以外に来訪者は全くない。

 そういう場所で、あまりにも卑小で、品格を欠き、国際社会で通用しがたい「管見」について述べることには抵抗感もあるが、最小限度のことは書きとめておこうと思う。

 橋下徹・大阪市長が戦時中の従軍慰安婦について必要性を認める発言をした。さらには、沖縄の在日米軍司令官に向かって「風俗業をもっと活用してはどうか」と発言した。米国務省や国防総省からすぐさま非難の声明が出るや、今度は開き直るかのように、戦時中に慰安婦制度をもっていたのは日本ばかりじゃない、なんで日本だけが非難されなきゃならないのか、という趣旨の反論をした揚句、沖縄で米軍兵士が女性に何をしたかを想起せよとの主旨の発言を付け加えた。

 正直、耳を疑うような思いがしたものだ(後日、米軍と風俗業云々については誤解を招いたとして撤回、謝罪したそうだ)。目の前でアホウドリが気持ちよさそうに飛んでいる。アホウドリは人間のように言葉を発しない。気高く見えさえする。あまりにも人間の方が愚かだから。

沖縄全戦没者追悼式に出席した橋下徹・大阪市長(右端)。左端はルース米駐日大使=2013年6月23日拡大沖縄全戦没者追悼式に出席した橋下徹・大阪市長(右端)。左端はルース米駐日大使=2013年6月23日
 戦争と性暴力の一体化は、戦争の本質に関わる。よい戦争も悪い戦争もない。戦争は敵を殺すことを目的とした集団的行為だ。

 戦争において兵士の戦意を保つために慰安婦が動員されていた歴史が世界各国にあることは悲しいけれども冷徹な事実だ。

 けれども、日本のように、国政の指導的な地位にある者たちが、それをまるでなかったかのように(英語でwhitewashという)言い続けている国は先進諸国のなかでは希有だ。

 今に至るまで一国の政治のトップが「(慰安婦への)強制はなかった」だのと言い続けている国は日本くらいではないか。

 フランスではドイツ軍に奉仕していた慰安婦たちは戦後民衆の怒りを買い過酷な仕打ちを被った。アメリカではイラク戦争に民間警備会社が売春婦を同行 ・・・ログインして読む
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筆者

金平茂紀

金平茂紀(かねひら・しげのり) TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

TBS報道局記者・キャスター・ディレクター。1953年、北海道生まれ。東京大学文学部卒。1977年、TBSに入社、報道局社会部記者を経て、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長、コロンビア大学客員研究員などを経て、2010年より「報道特集」キャスター。2004年、ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『沖縄ワジワジー通信』(七つ森書館)、『ロシアより愛を込めて――モスクワ特派員滞在日誌 1991-1994』(筑摩書房)、『二十三時的――NEWS23 diary 2000-2002』(スイッチ・パブリッシング)など。共著に『テレビはなぜおかしくなったのか<原発・慰安婦・生活保護・尖閣問題〉報道をめぐって>』(高文研)、『内心、「日本は戦争をしたらいい」と思っているあなたへ』(角川書店)など多数。

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