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沖縄近海で見せた米軍の闘志――中国の防空識別圏とチキンゲーム

谷田邦一 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

 尖閣諸島の領有権をめぐり、中国が力で秩序変更を迫る新たな挑発に出てきた。中国が突然発表した防空識別圏は、東シナ海の公海上の空域に対し、自国の行政管理権を主張する常識外れな内容だった。

【写真1】 米空母に並ぶ戦闘機拡大【写真1】 米空母に並ぶ戦闘機
 日中は、周辺海域での公船による小ぜりあいに加え、軍用機同士がより広い空域で直接あいまみえることになる。偶発的な軍事衝突の危険が高まり、事態は深刻なチキンゲームの様相を呈しつつある。

 中国の発表から4日後の11月27日。筆者は日米の共同演習(Annual Ex13)を取材するため、沖縄の南東約400キロの西太平洋に浮かぶ米空母「ジョージ・ワシントン」の艦上にいた(写真1)。横須賀を母港とする第7艦隊の中枢艦である。

 米海軍の担当者が最初に報道陣を案内したのは、艦載機による発着訓練だった。20機前後の戦闘機や電子戦機が、艦上からすさまじい爆音とともに次々とカタパルトで打ち出され、上空を旋回して着艦する光景を1時間近く見せつけられた。

 空母取材の定番メニューの1つだが、ふだんの訓練とどこか違う。ふと戦闘機(スーパーホーネットFA18)の兵装に目をやって驚いた。主翼にぶら下がっている爆弾が、実弾を意味する黄色に塗られた自由落下爆弾だったからだ(写真2)。

【写真2】 FA18に積まれた実爆弾拡大【写真2】 FA18に積まれた実爆弾
 どこで投下訓練をしていたのだろう。最も近いのは、尖閣諸島にある米軍専用の赤尾礁(せきびしょう)射爆撃場と黄尾礁(こうびしょう)射爆撃場の2カ所。いずれも中国の防空識別圏内だ。

 そういえば、どの戦闘機も遠距離飛行の際に装着する巨大な外付けの燃料タンクをとりつけている。西太平洋から、はるばる東シナ海の尖閣諸島まで出向いて実弾攻撃訓練をしていた可能性が考えられる。

 さらに注意深く見ると、戦闘機によっては大型の地上目標を破壊する際に使われるミサイル「マーベリック」や敵のレーダーを破壊するための空対地ミサイルを積んでいるではないか(写真3)。

 こちらは訓練用を意味する青い塗装の模擬弾だったが、発着訓練をしているのは戦闘機と最新鋭の電子戦機(グラウラーEA18G)の組み合わせときている。

【写真3】 米空母の甲板には大型対地ミサイル「マーベリッ久」も(下)拡大【写真3】 米空母の甲板には大型対地ミサイル「マーベリッ久」も(下)
 電子戦機の役割は、敵の基地や航空機のレーダー探知を妨害すること。軍事関係者が見れば、演習のシナリオが仮想敵国の地上レーダーなど軍事施設を攻撃・破壊する中身になっていることが一目瞭然だ。

 Annual Exは米海軍と海上自衛隊とで長年続く共同演習で、2006年からは中国や北朝鮮による日本侵攻を想定し、日本を防衛する目的で行われていることがよく知られている。

 日米演習には、グアム島からB52爆撃機2機も参加、11月26日の昼間に中国の防空識別圏内を1時間以上にわたって飛び続けるデモンストレーションも行われた。

 米国防総省は「事前通告なしに飛行したが中国側に反応はなかった」とわざわざコメントしている。オバマ政権の強い意思表示といえよう。米海軍は中国に対し、猛烈な演習を見せつけ強い牽制のメッセージを投げつけていたといえる。

 折しも26日から28日にかけては、中国初の空母「遼寧」が4隻の随伴艦をつけて山東省・青島の基地を出航、訓練のため南シナ海に向けて南下していた時期と重なった。中国の艦隊は尖閣周辺に接近するのではないかとの専門家らの観測もあったが、実際には、まるで日米の演習を避けるかのように大陸寄りの台湾海峡をすり抜けていった。

 米海軍による報道陣への対応は手厚かった。

【写真4】 ロバート・トーマス米第7艦隊司令官拡大【写真4】 ロバート・トーマス米第7艦隊司令官
 日本のメディアだけでなく、米国のCNNやロイター通信、タイム誌も同行しており、ロバート・トーマス第7艦隊司令官は27、28両日に計2時間近くを報道陣向けの懇談や記者会見に費やした(写真4)。関心が中国の防空識別圏に集中することも見越して、周到な応答要領の準備をしていた。

 トーマス中将は防空識別圏について尋ねられると、「これまでも、またこれから先も第7艦隊の活動は変わらない」「国際法や国際規範に従って行動するだけ」と中国の挑発には動じない姿勢を明確にした。

 ただしそれ以上は踏み込まなかった。中国海軍の海洋進出については「装備や能力が近代化されると、活動が活発になるのは自然なこと」と一定の理解を示し、米軍が主催する2014年の環太平洋合同演習(リムパック)に中国海軍を招待していることを紹介。「一緒に訓練ができるのを楽しみにしている」と穏やかに語る場面もあった。中国に対しては和戦両様で臨む米海軍の懐の深い配慮を感じた。

 さて、中国の防空識別圏問題は今後どのような展開を見せるのだろうか。すでに山のような報道がなされているが、大事な問題点だけおさらいしておこう。

 そもそも公海やその上空は、国際法で船や飛行機が自由に航行・飛行できるとされている。中国も批准している国連海洋法条約89条は「いかなる国も公海のいずれの部分をその主権の下におくことを有効的に主張できない」と規定している。

 それにもかかわらず、中国は防空識別圏があたかも自国の領空であるかのように行政管理権を行使すると宣言した。

 これが最大の問題である。中国は声明や公告を通じて外国機に飛行計画の提出を義務づけ、事前通報がないまま入ってくると「武装力による防御的な緊急措置を講じる」(国防省報道官)としている。字句通り読めば、軍用機による威嚇や攻撃、強制着陸を覚悟せよということだ。

 日本や韓国などが導入している防空識別圏は、あくまでも領空に接近する国籍不明機が敵か味方かを見極めるため、領空の外に設けた緩衝的な警戒空域にすぎない。他国の航空機に義務を課すようなことは一切なく、領空侵犯を防ぐための緊急発進(スクランブル)の目安となっている。

 ところが中国側は「自衛権を行使するために必要な措置」(国防省報道官)と定義がまるきり異なっている。

 ちなみに日本の場合、領空に近づく国籍不明機に対しては、無線による領空外への退去要請や警告射撃、強制着陸などの措置がとられる。ただし、あくまでも警察活動の一環としての抑制的な対応で、相手が従わなくても攻撃してこない限り撃墜することはできないという制約がある。

 中国が言う「緊急措置」とは何を意味するのか、日本を含め各国は至急、対話を通じてその内容をしっかり確かめる必要がある。空域内には数多くの民間航空路があり、おびただしい数の航空機が日々往来しているからだ。万一のことがないよう、中国側の意図をしっかりとおさえておくことは必須だ。

防空識別圏と第一列島線拡大防空識別圏と第一列島線
 もう1つ押さえておかなければならないのは、中国がなぜこのような挑発に及んだのかという点だ。
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筆者

谷田邦一

谷田邦一(たにだ・くにいち) 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

1959年生まれ。1990年、朝日新聞社入社。社会部、那覇支局、論説委員、編集委員、長崎総局長などを経て2013年4月から社会部専門記者(防衛問題担当)。主要国の防衛政策から最新兵器、軍用技術まで軍事全般に関心がある。防衛大学校と防衛研究所で習得した専門知識が、現実の紛争地でどのくらい役立つのか検証取材するのが夢。

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