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防空識別圏問題の解決は政治家の度量次第――日中韓は対話の機会を作れるか?

金恵京 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

 11月23日、中国は突然、日本が領域を主張する尖閣諸島を含む防空識別圏を敷くと宣言した。もともと、防空識別圏の設定は国際法的に明文化された規定がある訳ではない。

 しかしながら、防空識別圏は他国からの領空侵犯牽制を目的とした戦闘機のスクランブル発進を伴う軍事的な枠組みであるため、通常、同圏設定には周辺各国との間での協議が必要となる。また、余計な軍事的な摩擦を避ける理由から、今回中国が公表した“中国国防省の指示に従うことの義務づけ、及び指示に従わない場合に武力による緊急措置をとる”といったような文言は通常明記されない。

 そして、尖閣諸島の近くには米軍の訓練施設が複数あり、その地域も中国が設定した防空識別圏に入っていたことで、中国は領土問題を抱える日本ばかりでなく、アメリカとも緊張関係を生じることとなった。中国の発表の翌日、アメリカが同域上空にB52爆撃機を飛行させたことからも分かるように、アメリカの中国に対する不快感は明確なものである。

 また、しばしば報道されており、本稿の主題ともなっているのが、韓国と中国との関係である。今回の中国の防空識別圏の範囲内に両国が管轄権(権限をもって支配できる範囲)を主張する岩礁である離於島(イオド)が含まれたことで、それは日中間のみの争いという構図ではなくなった。

 韓国はこれまで、事を荒立てなくないとの思いもあり、声高に中国との間の岩礁である離於島の管轄権について争議があることを内外に強調してこなかった。それが今回の騒動で急きょ注目を集めることになったのである。

 では、離於島とはどのような存在なのであろうか。現在、各国の領海は領域から12カイリまでの距離とされている(領空も同様)。そして、ある島が領域として認められるためには、潮の満ち引きにかかわらず、常時陸地が海上に露出していることが条件となる。

 しかし、離於島は海抜マイナス4.6メートルの位置にあるため、海上に現れることはなく領土とは認められず、陸地からの距離も韓国・中国共に領海内ではない。

 しかしながら、離於島は韓国と中国との排他的経済水域の重複する場所に位置しており、海洋資源の採掘場としても注目されていることから、韓中両国は互いに権利を主張するようになったのである。

 ただ、その岩礁の海面からの近さを考えると、以前発生した大型船による接触事故の再発防止のために何らかの目印が必要になることから、1987年、韓国は離於島の上に灯台を設置したことを皮切りに、2001年にかけてプラットフォームを建造した。国連海洋法条約によれば、沿岸国は排他的経済水域において、人工島、施設及び構築物の設置及び利用に関する管轄権を有するとされており、韓国はその権利を行使したとの立場をとっている。

 韓国がそうした強気の姿勢を見せる背景には、二つの理由がある。

 第一に、国際的な判例および国際法の存在である。2012年、国際海洋法裁判所において、ミャンマーとバングラデシュとの大陸棚に関する係争について、両者の陸地からの中間線を境界とするとの判決が下っている。また、「大陸棚に関する条約」第6条には「特別の事情により他の境界線が正当と認められない限り」中間点を相対する国の境界とする、との規定がある。それらに従えば、中間線よりも韓国側にある離於島は韓国の排他的経済水域の中に入ると考えるのが妥当と考えられている。

 また、第二に、離於島はかねてより韓国海軍の作戦区域内であった点があげられる。その上、1969年の日韓米の協議の下、設定された防空識別圏の中に離於島が含まれているという同盟国間の軍事上の行動範囲を根拠とする視角も存在している。

 ただし、離於島上空の防空識別圏に関しては、当該地域は日本の防空識別圏に当たるという事情もある。それは排他的経済水域が200カイリまで拡大されたのが1982年のことであり、防空識別圏が設定された1969年当時、領海とされない離於島上空はあくまで公海であったことや、同域の設定がアメリカによる便宜上の振り分けでもあったことが原因である(韓国の防空識別圏には竹島が入っているが、その件に関して日本から反発がないのは同様の理由による)。

 こうした状況を概観すると、離於島は、上空では日本と中国、海上では韓国と中国の主張が衝突する場となっている。こうした状況に対して、日本はアメリカとの同盟関係があり、中国の防空識別圏設定に関して反対の立場をとった韓国と共同歩調がとれるとの見方が広がっている。

 一方で、近年、韓国は軍事面でのアメリカとの同盟関係と、全輸出額に占める割合が25%である中国の経済的重要性との間でバランスをとろうとしてきた。しかし、今回の中国の動きについては、韓国世論はそれに同調していない。また、軍事的合同演習を共にする日米両国が中国の姿勢に反対していることから、韓国は今後も中国に自らの主張を述べていく立場となると見られている。

 韓国の「朝鮮日報」でも、現状を「専門家の多くはまず伝統的な韓米日三角同盟への復帰を急ぐよう提言している」と伝えているように、これまでのバランス外交を維持したままでは、この局面に対処できないとの見方は国内外で強い。

 ただし、そうした日本、アメリカ、韓国、中国が関係する状況に対して、大きな懸念となるのは、日本と韓国との間の首脳会談が1年半ほど開催されていないという点である。李明博前大統領の竹島訪問から日韓の間には摩擦が大きくなり、2013年に入っても靖国神社参拝問題などから朴槿恵政権は緊張の度合いを増し、従来行われてきた両国の首脳会談が滞ってしまった。

 そうした状況から、日本では見込みが薄いと思われている日韓の首脳会談であるが、この夏に韓国の調査会社が行った世論調査では過半数を超える人々が早期の日韓首脳会談の開催を支持し、11月に入って韓国国内各紙でも朴大統領の姿勢を問う声が上がってきている。元来、朴槿恵大統領はそれほど激しい反日姿勢の持ち主ではなく、そうした主張をしたこともなかった(「『いつもの光景』を超えて――竹島(独島)を相互理解の契機に」でも書いたように、李明博前大統領も親日的ですらあった)。

 一般に、朴大統領は支持率を上げようとして、反日というスタンスをとっていると考えられている。しかし、韓国国内では、 ・・・ログインして読む
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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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