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陸自の水陸両用装甲車、AAV7導入は裏口入学だ

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 陸上自衛隊は島嶼防衛のための水陸両用部隊の編成をもくろみ、平成26(2014)年度も関連予算を要求している。その目玉の一つが水陸両用装甲車の導入だ。陸自は米兵隊も使用している水陸両用装甲車、AAV7を評価用として調達を進めている。

 筆者が入手した陸自の内部情報によると、評価用としての取得は単なる建前であり、すでにAAV7の調達は決定事項のようだ。しかもこれを防衛省も政府も追認している。

 そうであれば、AAV7の調達は評価用のサンプルではなく、本来の装備として予算を要求すべきものである。これを調査用、評価用のサンプルとして予算を要求し、国会で予算の承認をさせたことは国会と納税者を欺く行為である。

 筆者は12月10日の防衛大臣記者会見において、このことを質問した。

 これに対して小野寺五典防衛大臣は「私どもとしては、このAAV7というのは参考品ということでの今回の購入ということで、その性能を見た上で今後どうするかを検討するということだと思います」と回答した。

 その後、防衛省の報道官から回答があり、防衛省も期日は不明だが平成26年度中に車種設定を行うことを了承しているという。

 AAV7は評価用としてまず平成25年度予算でAPC(装甲兵員輸送車)型4輌が要求されている。これらは米海兵隊の中古をリファブリッシュしたもので、来年度には納入される予定だ。

 陸上幕僚監部は平成26年度予算ではさらにAAV7の指揮通信型、回収車型(戦場で破損したりした装甲車を回収するための車両)各1輌を要求している。こちらは新造であり、納入されるのは2年後、平成28年度の予定だ。

 平成25年4月15日の予算委員会第一分科会では、日本維新の会の中丸啓議員による「25年度に調達したAAV74輌の納入はいつになるか」という質問に対して、防衛省側の徳地秀士防衛政策局長は以下のように答弁している。

 「27年度までに取得をいたしまして、それから1、2年かけてこれにつきまして性能を確認する、あるいは運用の検証を行う。これによりまして、水陸両用車を導入すべきかどうか、それから実際にどの機種にするかということについて検討をするということになっております」

 仮に徳地防衛政策局長の答弁が正しければ、評価作業が完了するのは平成28~29年になる。当然AAV7が装備として予算が要求されるのは、早くても平成29年度ということになる。

 ところが先述のように筆者が入手した陸自の内部情報によれば、AAV7の評価は2014年5月から行われ、12月には水陸両用装甲車の採用車種を決定するとある。

 つまり、来年度予算で発注する予定の指揮通信型や回収型の納入を待たずに、APC型のみで、わずか何カ月の形だけの評価を行い、採用を決定することになる。

 来年度予算で要求されている指揮通信型と回収型は採用を決定するための評価試験には使用されない。つまり概算要求は虚偽の理由を挙げて、指揮通信型と回収型を要求することになる。この程度の簡単な評価であればわざわざサンプルを購入するまでもなく、米海兵隊からリースするなり、共同演習を行えば済む話だ。

 だが指揮通信型や回収車型抜きのわずか何カ月かの評価であれば、部隊としての運用評価は不可能だ。

 水陸両用装甲車は過去に自衛隊が使用したことのない、未知の装甲車輌だ。本来APC型、指揮通信型、回収型で試験的に小部隊を編成して性能や運用を評価してから採用を決定すべきだ。それをしないということは、部隊を運用する際の指揮も通信も作戦も必要なく、車輌が被弾したり、故障することは想定しない、ということになる。

 しかもこの杜撰な選択を防衛省も政府も了承していることになる。次期中期防では52輌の水陸両用装甲車の調達が予定されている。だがAAV7以外に候補がないために、仮にAAV7が不採用であれば再度候補を選びなおす必要があるが、それでは中期防中に52輌の調達は不可能だ。

 そもそも実物を評価しないで、部隊規模や編成などできるわけがない。つまりはじめからAAV7の採用ありきで、評価目的の取得というのは茶番だったことになる。

 ちなみに先の内部情報によると、陸幕は人員約3000名の水陸両用旅団のかなり具体的な編成構想をもっている。中核となるのは各600名の3個普通科連隊であり、それぞれに本部中隊、AAV中隊(22輛程度)、ヘリボーン中隊、ボート中隊などが含まれるという。

 さらに旅団直轄部隊として120ミリ迫撃砲を装備する特科大隊、JDAMなど精密誘導兵器の終末誘導を担当する火力誘導中隊なども編成されるという。

 これらの情報を総合すれば、陸幕ははじめから装備品としてAAV7の導入を決定していたことになる。だが、国会や納税者に対しては「評価目的」と虚偽の予算要求をしたことになる。有り体にいえば、騙して調達することになる。そしてそれを防衛省や政府が追認したのだ。

 そもそもAAV7は我が国の環境に適しておらず、時代遅れでもある。陸幕はまともな水陸両用戦に対するリサーチもせず、米海兵隊と同じ「玩具」を欲しがっているとしか思えない。

 AAV7採用を言い出したのは民主党時代の森本敏氏と、元陸幕長、統幕長で、民主党時代に防衛大臣補佐官となり、現在の第二次安倍内閣でも防衛大臣補佐官に任ぜられた折木良一氏の声が大きかったという。当初は国産開発を意図していたが、それが不可能となるとAAV7の導入に舵が切り替わった。

 ろくに必要性も論じられなかったのに、「偉い人」の鶴の一声によって、AAV7の採用ありきで話が進んできたと、複数の陸自関係者は筆者に語っている。

 また、ここには米海兵隊の思惑も入っている。これまた複数の防衛省関係者から、米海兵隊によるAAV7採用の強い「勧め」があったことを筆者は聞いている。自分たちに不要な旧式装備を自衛隊に押し付けて、「在庫一掃セール」を狙っているわけだ。

 そもそもAAV7とはどのような装甲車なのだろうか。その概要をここで説明しておこう。

タイ中部の海岸で上陸訓練を行う米軍水陸両用車AAV7=2013年2月拡大タイ中部の海岸で上陸訓練を行う米軍水陸両用車AAV7=2013年2月
 現用型のAAV7A1は最大25名と多くの下車歩兵を収容し、ウォータージェットで時速13キロで海上を航行できる。水上航行を重視した半分船舶のような装甲車だ。

 速度は、ピラーニャIIIやAMVなど、スクリューを装備した通常型の装甲車輛の約3倍だ。サイズは全長7.9メートル、全幅3.27メートル、全高3.26メートルと巨大であり、また陸上での機動力が低いので上陸後は被弾の可能性が高い。実際、イラク戦では多くの被害を出している。

 AAV7は防衛省が想定する南西諸島を念頭においた島嶼防衛の上陸作戦では ・・・ログインして読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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