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東京オリンピック開催に見る日本の戦前と戦後――靖国参拝と国際的孤立

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

戦前のファシズムとの共通点

 フェイスブックなどでは、戦前と現在の次のような類似性が話題になっているという。

 戦前には、1923年に関東大震災が起こり、その2年後の1925年に治安維持法が成立し、1929年に大恐慌がおこり、東京オリンピックを1940年に開催することが決定した。今は、2011年に東日本大震災が起こり、同じくその2年後の2013年に秘密保護法が成立し、2020年に東京オリンピックを開催することが決まっている。そして、今後、アベノミクスの崩壊や世界的な経済破綻の可能性がある。

1925年2月、治安維持法案・労働争議調停法案に反対した労働団体のデモ=東京・芝赤羽拡大1925年2月、治安維持法案・労働争議調停法案に反対した労働団体のデモ=東京・芝赤羽
 戦前の場合、1936年に東京オリンピック開催が決定してその後に準備が進められていたものの、1937年に盧溝橋事件が起こって日中戦争が始まり、内外で開催反対の声が高まり、1938年に日本は開催権を返上した。今も、2013年に東京オリンピックの開催が決定したものの、中国・韓国との関係が悪化している。

 だから、「戦前の場合は日中戦争により東京オリンピックは中止され実現できなかった。もしかすると、これからも中韓との緊張関係が激化し武力衝突が起こるようなことがあれば東京オリンピックも実現できないかもしれない」というのである。

 年号の符合は偶然のこととはいえ、このような歴史の繰り返しこそ、筆者が長年恐れてきたことである。

 筆者は、政党システムの観点から、1990年代の「政治改革」のとき以来、日本に小選挙区制を導入して二大政党制を実現しようという試みは、戦前の二大政党制(政友会と民政党)と同じように、一時的には成功したように見えても、結果的には政党政治や民主政の破綻につながる危険があると批判してきた。「戦前循環」と同じような「戦後循環」が実現してしまうと危惧したのである。

 残念ながら、巷で上述のような懸念が話題になるように、この20年来の危惧は恐ろしいほど的中し、現実がそのような方向に進んでいるように見える。筆者は、2012年の総選挙と2013年の参議院選挙において、このサイトに幾つもの文章を書いて、アベノミクスによる経済再生という「夢想」の背後に、日本政治に右翼的体制変革による戦前への回帰という危険が迫っているという警鐘をならした。

 残念ながら、自民党の圧勝を経て、この危険性がいよいよ明確に日本政治上に現れてきたわけである。安倍政権の成立の時にこのような危険性を感じなかった人は、政治的洞察力が鈍いと言わざるを得ないだろう。

 麻生副総理の「ナチス憲法発言」(「静かにやろうや」ということで、ワイマール憲法はいつの間にか変わっていた。誰も気がつかない間に変わった。あの手口を学んだらどうか)(2013年7月29日)も、振り返ってみれば、このような展開を予示しているようにも思われる。ナチズムも当初は経済政策で国民の支持を拡大し、その後に本性を現してきた。安倍政権もアベノミクスで支持を拡大し、いよいよ本来の狙いを実現し始めたわけである。

 また、筆者は、日本維新の会には極右的要素が存在すると指摘し、そのような政党が国会で一定の勢力を持ったのは戦後政治にとっては初めての現象だと警告を発した(「『日本維新の会』はやはり極右政党か?」)。従軍慰安婦に関する橋下発言により、日本維新の会の勢いは止まった。しかし、だからといって日本政治に危機が去ったわけではなく、今、日本政治は次の局面に入ったと言わざるを得ない。それは何だろうか?

靖国参拝が招いた国際的孤立

 2013年末は秘密保護法案の成立に続いて、安倍首相の靖国参拝で終わった。靖国参拝は、中韓の反発のみならず、アメリカ政府までが「失望している」という公式声明を発表し、ロシア、国連事務総長、EU報道官や海外メディアなどからも様々な批判的反応を招いた。日本は友好国を含めて国際的な反発を買い、いわば日本包囲網が形成されたと言われたのである。

 これは、もちろん戦後初めての事態である。これに似ているのは、むしろ戦前の日本であり、満州国建設は英米を含めて国際的な反発を招いて、時の松岡外相は満州国建設に対するリットン報告書採択に際して国際連盟総会から退場し、1933年に日本は国際連盟を脱退した。そして日本は、ドイツやイタリアとともに三国同盟の一員として第二次世界大戦に突入したのである。

 今の日本がすぐに国連を脱退することはありえないものの、露骨にアメリカが批判的にコメントするという事態は、

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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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