2014年01月23日
自民党は地方選では敗北が目立っており、沖縄県名護市長選、福島県南相馬市長選というように、安倍政権の政策に反対する側が勝利した。ただ、前者は辺野古への基地移設問題、後者は原発再稼働政策に対する地元の反対の意思表示としては大きな意味を持つものの、国政全体に対するインパクトは限定されている。
これに対して、東京都知事選は1300万人もの都民の意思表示だけに、国政全体に対するインパクトも大きい。石原慎太郎氏が都知事として尖閣諸島の問題に火をつけ、今日の日中関係の激化をもたらしたことを思えば、都知事選の帰趨が外交や国政にも大きな影響をもたらしうることがわかるだろう。
特に今回は原発問題が浮上したために、準国政選挙のような意味を持つに至っている。今度の東京都知事選は、単に東京都だけではなく、日本全体の命運に大きく影響するだろう。
ある意味では、この時期に都知事選がおこなわれるのは、安倍政権に対して批判的な側にとっては「僥倖(思わぬ幸運)」である。なぜなら、本来は次の都知事選は2016年の予定で、今回は猪瀬直樹前知事の辞任にともなっておこなわれることになったからである。この結果、次回の2016年参議院選挙までは大きな国政選挙がないかもしれなかったのに、突然、準国政選挙のような意味を持つ選挙がおこなわれることになった。
しかし、この「僥倖」を生かせるかどうかは、もちろん人びとの努力と判断にかかっている。では、この選挙ではどのような政治的構図が現れているだろうか?
今回、もっとも大きな注目を集め、台風の目となっているのが、細川護熙元首相の立候補である。正式出馬会見は度々延期されたが、公示日前日(1月22日)に細川氏は遂に正式の記者会見をおこない、脱原発を主張している小泉純一郎元首相の全面支援を受けて、脱原発を実現するために立候補した。「殿、ご乱心」と甘利明経済再生相が批判したのも、安倍政権の狼狽(うろた)えぶりと危機感を表している。
細川氏は記者会見冒頭で、現在の国政の動向に危機感を表明して、公約を「日本を変える」とした。
「『原発依存型のエネルギー多消費型社会』を180度方向転換しなければ駄目」と述べて、世界一の省エネルギー都市を目指して「東京エネルギー戦略会議」を設置し、都独自の政策の中長期的な行程表を作り、原発ゼロを実現し、再稼働を認めずに再生可能エネルギーの拡大や省エネを図るとした。
また、五輪では、東北の各都市と共同で文化施策やイベントに取り組み、震災復興の姿を世界に示して、実質は“東京東北オリンピック・パラリンピック”のようにできないものかと考えている、と述べた。そして、日本らしい簡素な五輪を目指して、日本のおもてなしを世界に広める「東京ボランティア隊」の創設も提案し、過大な施設計画は見直す、という。
同時に、防災・景観、都市基盤整備、子供と高齢者にやさしい都市モデルも訴え、「原子力は放射性廃棄物の処分ができない致命的な欠陥を抱えている」「再稼働を止める政治決断をおこなうなら今しかない」と指摘し、エネルギー政策の転換が新たな成長を生むとの考えを強調し、都が東京電力改革に株主として取り組む姿勢も示した。
この細川―小泉連合には、民主党都連、生活の党などが支援を決めている。細川氏は、かつて日本新党を作って自民党に代わる連合政権を作り、「政治改革」をおこなった。それ以来、その政治的立場は、中道左派的な改革派と考えられよう。
小泉元首相は、自民党で安倍首相とも近い関係だから、細川氏を全面的に支援するのは大きなニュースになった。ただ、小泉氏は郵政改革を考えてみればわかるように、自民党内の「改革派」として長期政権を形成したので、細川氏とは「改革派」としての共通性が存在する。
安倍政権は、とくに原発問題に関しては再稼働をめざして元の自民党の方向に戻そうとしている。ここには、原子力ムラといわれるような産官学の共同体の利益が存在している。小泉改革が国民的支持を受けたのは、このような既得利益の共同体を破壊することを謳ったからである。このように考えれば、小泉氏が安倍首相と袂を分かって細川氏を全面的に応援することになったのも、理由がないわけではないのである。
逆に言えば、安倍政権の方向は、すでに小泉改革が代表する「改革」路線とは大きく異なっていることが小泉氏の動向に明確に現れている。小泉改革は、市場経済を重視する点で国家の役割を小さくするというリバタリアニズム(ネオ・リベラリズム)的改革だった。安倍政権にもそのような方向は存在するとはいえ、経済政策においても、むしろその中心は国家主義的介入政策である。
アベノミクスにおいて、日銀総裁を代えて金融の量的緩和政策をとり、政労使会議では官民が一致協力する合意文書をまとめた。これらは、国家主義的な経済介入であり、政府と経済界、労働界の代表との「合意」は、戦前の権威主義的コーポラティズムを想起させる。
秘密保護法、憲法改定や集団的自衛権をはじめ、政治的問題になれば、その政策が見紛う方なき右派的な国家主義であることは言うまでもない。これは、リバタリアニズムの本来の国家観・政治観とは対立する。だから、安倍首相と小泉元首相との分岐は、理想として目指す国家や政治経済の相違を反映しているとも考えられるのである。
これに対し、明確に右派的な流れから出馬したのが、元航空幕僚長の田母神俊雄氏である。元・都知事の石原慎太郎氏は、今は日本維新の会・共同代表となり、国会における極右的潮流を代表している。石原都知事の後継者である猪瀬前知事が辞任して今度の都知事選がおこなわれることを思えば、石原氏に近い右派的潮流が引き続き都知事を占めるかどうかは大きな意味を持つ。
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