2014年01月29日
キャロライン・ケネディ駐日米国大使が、和歌山県太地町で行われているイルカ追い込み漁を批判する見解をツイッターで発信した。これが大きいなニュースとして取り上げられ、安倍晋三首相が反論する事態に至った。
筆者は本件を複合的な事案であると考える。具体的には、
1.イルカ、クジラをめぐる日米間の文化の相違
2.ケネディ大使の個性
3.米国が考えるところの普遍的価値観を日本が理解しないことの苛立ち
が複合した事案であると筆者は認識している。
筆者の見解を述べる前に、事実関係について整理しておく。
1月18日のケネディ大使のツイートについて朝日新聞は、こう報じた。
<「米国政府はイルカ漁反対」 ケネディ大使がツイート
キャロライン・ケネディ駐日米大使は18日、短文投稿サイトのツイッターに「米国政府はイルカの追い込み漁に反対します。イルカが殺される追い込み漁の非人道性について深く懸念しています」と書き込んだ。
ケネディ大使は昨年11月の着任直後から、日本語と英語の両方でツイートしている。イルカの追い込み漁は和歌山県太地町で行われている。今回の書き込みには、賛否両論の返信が寄せられている>(1月19日『朝日新聞デジタル』)
このツイートが行われた時点では、ケネディ大使が個人的見解を述べたに過ぎないとする見方もあった。しかし、そのような見方は、21日にケネディ氏が朝日新聞と行った単独インタビューによって否定された。
<イルカ漁懸念ツイート「政策示すこと大事」 ケネディ氏
ケネディ駐日米大使は、朝日新聞のインタビューで、短文投稿サイトのツイッターでイルカの追い込み漁について懸念を示した理由を「ここ数週間、私や大使館に多くの手紙やツイート、メールや電話が寄せられた。米国の政策をはっきりと示すことが大事だと考えた」と話した。
大使のツイートに対して賛否両論が寄せられた点については「健全なこと」と述べ、他の課題でもツイートしていく姿勢を示した。
イルカの追い込み漁は和歌山県太地町で行われており、動物保護団体などが強く反発している。
ケネディ大使は今月18日、「米国政府はイルカの追い込み漁に反対します。イルカが殺される追い込み漁の非人道性について深く懸念しています」と書きこんだ。
これに対し、菅義偉官房長官は「イルカ漁業は我が国の伝統的な漁業の一つで、法令に基づき適切に実施されている。米国に日本の立場を説明していく」と発言。和歌山県の仁坂吉伸知事は「クジラやイルカを殺すところだけ残虐というのは論理的でないと思う」と述べるなど、反発も広がっている。
米政府の公式見解は「追い込み漁を支持しない」というもの。大使の「反対」はやや踏み込んだ発言だが、米国務省は「ケネディ大使は、我々の長年の立場を示した」(ハーフ副報道官)と歩調を合わせた。(山脇岳志)>(1月23日『朝日新聞デジタル』)
20日の記者会見で、菅義偉官房長官が述べた、「イルカ漁業は我が国の伝統的な漁業の一つで、法令に基づき適切に実施されている。米国に日本の立場を説明していく」というのが、日本の政治エリートの本件に対する標準的な受け止め方と思う。
安倍首相もこのラインで、22日にスイスのダボスで収録された米CNNのインタビューに応答した。
<首相「イルカ漁は文化であり慣習」 米CNN取材に
安倍晋三首相は米CNNのインタビューに応じ、ケネディ駐日米国大使が反対を表明した日本でのイルカの追い込み漁について「古来続いている漁であり、文化であり慣習として、生活のためにとっていることを理解していただきたい」と述べた。22日にスイスのダボスで収録されたインタビュー映像の一部が同社ホームページに公開された。
首相は「それぞれの国、地域には祖先から伝わる様々な生き方、慣習がある。当然、そうしたものは尊重されるべきものと思っている」とも語った。インタビューの詳細は26日にCNNで放送される予定>(1月25日『朝日新聞デジタル』)
筆者が冒頭に掲げた、
1.イルカ、クジラをめぐる日米間の文化の相違
という観点からすれば、安倍首相、菅官房長官の対応は当然のことだ。
人間と動物の関係は、文化によって異なる。この文化が時代によって変遷するから厄介だ。米国の作家ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』を読めば、当時の米国人にクジラやイルカに対する強い愛着があったとは言えないことがわかる。『白鯨』は、1956年にグレゴリー・ペック(エイハブ船長)主演の映画にもなっている。米国人は、50年前とまったく異なった動物観を持つに至ったということだ。
もっとも日本の政治エリートが、イルカの追い込み漁や捕鯨について、文化を根拠に説得しても、国際社会、特に欧米諸国の理解を得ることはできないであろう。世界には、犬や猫の肉を食べる地域もある。そのような食文化について、文化多元主義の立場から説得されても、日本人の犬好き、猫好きの人が納得しないのと同じだ。
しかし、本件は日米間の文化摩擦だけには還元できない。そこで注目されるのが、
2.ケネディ大使の個性
である。
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