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スポーツ選手やスターと政治との密な関係――ソチオリンピックから見えたプーチン体制

大野正美 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

 「プーチン大統領の与党『統一ロシア』の下院議員が5人、同じく元議員が1人いた。党員ではないものの、2年前の大統領選挙でプーチン氏の公式代理人として応援活動したのも4人出てきたな……」

 ソチ冬季五輪の開会式を見た後、式の演出で出てきたロシア側の主な人物について、知らず知らずのうちにそんな数字を考えていた。そこに、実質14年近くにわたってロシアを率いてきたプーチン氏が、威信をかけて開催したこの五輪に込める政治的なメッセージがうかがえるように思う。

 下院議員とは、まず聖火台への最後の点火役を務めた元フィギュア・スケート選手のイリーナ・ロドニワさん(64)と元アイスホッケー選手のウラジスラフ・トレチャック氏(61)である。

 ロドニナさんは、ペアで札幌、インスブルック、レークプラシッドと3連覇を果たした。いかにもソ連のアスリートらしい、精密機械のような正確無比の演技を覚えている方も多いだろう。2007年から「統一ロシア」の下院議員を務める一方で、大統領付属の体育・スポーツ委員会の委員でもある。

 トレチャック氏も札幌、インスブルック、サラエボで金メダルを三つ、レークプラシッドでも銀を獲得した名選手だ。やはり03年から下院議員で、与党「統一ロシア」に属している。

聖火ランナーのアレクサンドル・カレリン(中央)。左はマリア・シャラポワ聖火ランナーのアレクサンドル・カレリン(中央)。左はマリア・シャラポワ
 開会式会場での聖火ランナーにも「統一ロシア」の下院議員が2人いる。レスリングのアレクサンドル・カレリン氏(46)と、新体操のアリーナ・カバエワさん(30)だ。

 カレリン氏は、グレコローマン最重量の130キロ級で五輪を3連覇したロシア・スポーツ界最強の英雄である。

 1999年の下院選挙では、当時首相だったプーチン氏の与党から出馬し、序盤の劣勢を盛り返すのに貢献した。その勢いに乗ってプーチン氏が翌年の大統領選に勝利した後も、ずっと議員を務めている。

 カバエワさんも04年のアテネ五輪の個人総合で優勝した新体操の元「女王」だ。07年から議員を務めているが、08年にプーチン氏との再婚説を報じたロシアの大衆紙が、その直後に休刊となる騒ぎが起きた。

 13年6月にプーチン氏はリュドミラ夫人と離婚したが、その際にもロシア内外の大衆紙などで背景にカバエワさんの名前が取りざたされた。

 5人目の「統一ロシア」下院議員は、開会式で五輪旗を運んだ8人の中の1人となった「最初の女性宇宙飛行士」ワレンチナ・テレシコワさん(76)だ。ソ連時代に共産党の中央委員、最高会議幹部会員などの要職にあったが、11年に下院議員として中央政界に復帰している。

 ほかにもバレエ「戦争と平和」の舞台でヒロインのナターシャ・ロストワ役を踊ったボリショイ劇場のプリマ・バレリーナ、スベトラーナ・ザハロワさん(34)が07年から11年まで「統一ロシア」の下院議員だった。現在は、ロドニナさんと同じ大統領付属体育・スポーツ委員会の委員でもある。

 また、五輪旗を運んだ8人のうちの1人で、五輪で2度優勝したアイスホッケーの名選手ビャチェスラフ・フェティソフ氏(55)も、プーチン政権の体育スポーツ庁長官を経て08年から上院議員を務めている。

 プーチン氏の進める政治に賛同して選挙で応援した公式代理人から、最初に2番目の聖火ランナーとして開会式に出てきたのが棒高飛び女子の世界記録保持者でソチ五輪選手村村長のエレーナ・イシンバエワさん(31)だ。

 五輪旗を運んだ8人では、世界的な指揮者でサンクトペテルブルクの名門マリインスキー劇場の芸術監督、ワレリー・ゲルギエフ氏(60)と映画監督のニキータ・ミハルコフ氏(68)がそうだ。さらにオリンピック賛歌を歌った欧米で活躍するスター・オペラ歌手のアンナ・ネトレプコさん(42)も公式代理人である。

 政治が臭う登用はほかにもある。

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