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金正恩第1書記の「新年の辞」 韓国との対話姿勢示す

礒崎敦仁(慶應義塾大学専任講師)

 2014年元日の朝、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が「新年の辞」を述べた。金正日(キム・ジョンイル)総書記は毎年「新年共同社説」を通じて施政方針を提示してきたが、昨年、金正恩第1書記は、金日成(キム・イルソン)主席が恒例としてきた「新年の辞」の演説を復活させていた。

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「新年の辞」を発表する金正恩第1書記。朝鮮中央通信が配信した=朝鮮通信 拡大「新年の辞」を発表する金正恩第1書記。朝鮮中央通信が配信した=朝鮮通信

 今年の「新年の辞」で注目された点は、対外関係についての言及が抑制的だったことである。2013年3月に金正恩第1書記自ら提示した「経済建設と核武力建設の並進路線」については、「並進路線」との表現で1回言及したのみで、「核武力」という言葉が抜けている。「国防力強化は国事中の国事」だと強調しつつも、昨年2月に強行された3回目の地下核実験については全く触れておらず、むしろ「平和はこの上なく貴重」だと訴えている。

 とりわけ韓国との関係については、「関係改善のための雰囲気を用意」すべきだと明言しており、「百害あって一利なしの誹謗中傷を終えるとき」だとして、「統一を望む人ならば誰であれ過去を不問に」するとされた。韓国への対話攻勢が始まったと見てよい。背景には、事実上、中国一国に頼らざるを得なかった経済・対外関係を見直そうとの強い意思もあろう。

 経済面では、2012年は「軽工業と農業」、2013年は順序を入れ替えて「農業と軽工業」を重視するとされてきたが、今年は軽工業が後退し、農業が最重要課題とされた。また、建築やスポーツ分野に関心が高い金正恩第1書記は、いずれも「世界的」な水準を目指すべきだと述べた。昨年に法律まで制定した「経済開発区」や対外貿易に関する言及は無い。

先代の威光に頼らず

 一方、国内向けには、金正恩第1書記自らが初めて張成沢(チャン・ソンテク)前国防委員会副委員長の粛清について言及し、「一心団結」を訴えた。「敵どもの思想文化的浸透策動」についての言及を復活させたり、「精神力」、「規律」、「秩序」を連呼したりするなど、昨年よりも思想の引き締めを強調している印象が強い。また、先代指導者の金日成、金正日に対する言及ばかりか、前政権を象徴する「主体」、「先軍」といった用語まで激減し、「遺訓」への言及も1回のみである。金正日総書記の死去からの2年間で大胆な人事が断行され、いくつかの新政策も示された。先代の威光に頼らずとも政権運営できる、との金正恩第1書記の自信の表れと解釈できる。今年、金正恩第1書記の独自色はますます強まることになろう。

 ただし、これまでの「新年の辞」や「新年共同社説」を見ると、年初に表明された方針が、必ずしも実際の政策に結びつかないこともある。2010年が顕著な例である。元日には、対米非難を行なわず、「人民生活向上」の最優先を宣言するなど、穏やかで現実的なトーンであった。しかし、同年3月には韓国哨戒艦沈没事件(北朝鮮側は関与を否定)、11月には延坪島砲撃事件が発生した。前例に鑑みれば、金正恩政権の対話攻勢に対して韓国も歩み寄れるかどうかが、北朝鮮に挑発行為を自制させ、南北関係を修復させる一つの鍵となろう。

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 礒崎敦仁(いそざき・あつひと)

慶應義塾大学専任講師。北朝鮮政治専攻。慶應義塾大学大学院やソウル大学大学院で学ぶ。北京の日本大使館専門調査員(2001年~2004年)などをへて現職。共著に『北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。