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ウクライナ動乱、東西対立だけでは理解できない収束の背景

大野正美 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

 首都キエフの中心部を炎と黒煙に包んだ激しい武力衝突のあげく、ウクライナのヤヌコビッチ政権が崩壊した。

 ここに一枚の写真がある。

 「キエフの諸施設とその他の出費」と書かれた書類を写したものだ。「オフィスのテレビと音響セットに2万4190ドル(約246万円)」「スペイン製の家具に17万4960グリブナ(約184万円)と7万2193ユーロ(約1010万円)」といった項目が51も並んでいる。その総額は、日本円にして1億216万円にも及ぶ。

ウクライナ拡大ウクライナ
 項目の中には、「プーシャ20Aの入札へのわいろ。3万2580グリブナ(約34万円)」という記載もある。

 これは、ヤヌコビッチ前大統領がキエフから姿を消した2月22日、前大統領が日ごろの生活を送っていたキエフ郊外のメジュゴリエにある邸宅に、残っていた数多くの書類のひとつだ。

 政権を握った反ヤヌコビッチ派によって開放された邸宅に、市民や報道陣が入り込んで見つけ、ウクライナのメディアなどを通じて一斉に報じられた。

 グリブナとは、ウクライナの通貨だ。こうした書類は前大統領の側近が退去する時に焼却が図られたが、焼き切れずに残ったものがあった。「投資者からの金銭収入」という書類もあり、「A・S・ハリャビニンから1200万ドル(12億2400万円)」などと書かれた項目が、ここにもずらりと並んでいる。

 ほかの書類は、メジュゴリエの邸宅にあるヘリコプター発着場の格納庫にドイツ製の扉を取り付けるための費用5万4164ユーロ(約760万円)を払ったことが記されている。

 さらに、国家予算から、狩猟と釣りのクラブに48万5309グリブナ(約510万円)を支出した記録など、こうした書類に記された豪勢なお金の使い方は枚挙にいとまがない。

 これらを報じたロシアの独立系ラジオ「モスクワのこだま」のサイトには、「我々には民主主義がある。大統領でも、わいろを自分で払っているからだ」という皮肉に満ちたコメントが寄せられている。

ヤヌコビッチ前大統領が住んでいた豪邸は市民に公開された=キエフ郊外拡大ヤヌコビッチ前大統領が住んでいた豪邸は市民に公開された=キエフ郊外
 メジュゴリエの邸宅の敷地は東京ドームの広さの約30倍の約140ヘクタールで、4階建て木造コテージの一角には古代ローマの遺跡が再現されている。

 庭園には熊やダチョウが飼育され、室内テニスコートやジムもある豪華さは、すでに内外に広く伝えられた。

 今後は、残された莫大な金の出入りを記す書類を通じて、大統領とその取り巻きたちのすさまじい錬金術の秘密にも、司法のメスが入ることは必至である。

 ウクライナは4500万人の人口を持つ。旧ソ連諸国ではロシアに次ぐ大国で、欧州とロシアの中間という地理的な要衝にある。その重要性から、欧州とロシアとの勢力圏をめぐる綱引きの間で揺れ動いてきた。

 今回の動乱も、前大統領が欧州連合(EU)との関係を強化する連合協定の調印を直前でやめ、巨額の融資と天然ガスの輸入価格引き下げを見返りにロシアに急接近したことをきっかけにして起きた。多大な対外債務を抱えるウクライナは、経済危機の瀬戸際にある。ロシアへの急接近で危機乗り切りを狙ったわけだ。

 けれどもウクライナは、言語も宗教も、親欧米の西部とロシアの影響が強い東部とに深く分裂している。当面の都合で国の将来の方向を決めた前大統領の突然の政策転換に、西部を基盤とする野党勢力が強く反発したのは当然のことだった。

 だが、事態をここまで深刻にしたのは、

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筆者

大野正美

大野正美(おおの・まさみ) 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

1980年、朝日新聞社入社。水戸支局、外報部、東京社会部などを経て、1986年からサンクトペテルブルクに留学、モスクワ支局勤務は3回計11年。論説委員、編集委員、国際報道部・機動特派員を経て、現在は報道局夕刊企画班。著書に『メドベージェフ――ロシア第三代大統領の実像』『グルジア戦争とは何だったか』(いずれもユーラシア・ブックレット、東洋書店)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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