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ウクライナを「フィンランド化」して、ロシア軍の介入を回避できないか

高橋和夫 放送大学教養学部教授(国際政治)

 ロシアは全ての国家と同じく安全保障に神経質である。侵略により悲惨な経験をしているので、その傾向は極端に強い。

 ロシア人の安全保障に関する神経質さを責めるのはやさしい。しかし、1812年のナポレオンの侵略の際には首都モスクワを放棄するところまでロシアは追い詰められた。1941年から1945年までのナチス・ドイツとの戦いでは3000万の人口を失った。歴史が安全保障に関してロシア人を神経質にしたのだ。

 ロシアという国が厄介なのは、安全保障に神経質なばかりでなく、自己の安心感を高めるために周辺諸国に介入する能力を有している点である。

 この面でもソ連時代から、何度も「実績」がある。スターリンの時代は、フィンランドからカレリア地方を奪い取った。重要都市であるレニングラード(現サンクト・ペテルブルグ)の防衛の強化のためであった。プーチン大統領自身も2008年8月 グルジアに軍事介入している。

 さて最近のウクライナの情勢が気にかかる。悪くするとロシア軍の介入を触発するのではと心配である。

 ウクライナの首都キエフに成立した新政権の最初の決定の一つは、公用語をウクライナ語のみとするものであった。これでロシア語は、公用語ではなくなった。これは、総人口の17パーセントを占める国内のロシア系の人々に手を差し伸べようとのジェスチャーではない。売られた喧嘩を買うかのように、ロシアのプーチン大統領はウクライナとの国境地帯に配備している部隊に緊急の軍事演習を命じた。

 国際政治の冷厳な現実を繰り返そう。

 つまりロシア人国家が安全保障に神経質である限り、そしてロシアが強力な軍事力を持つ大国である限り、周辺国はロシアの意向を無視できない。なぜならばロシアは、自らの安全保障を脅かす政権が国境沿いに存在するのを許さないからだ。中国との関係が悪かった1960年代末から1970年代初頭の時期には、中国に対する核攻撃をソ連の指導層は真剣に考慮したほどだ。

 この厄介な隣人と付き合う方法はあるのだろうか。

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