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ウクライナの注目点――プーチンが重大な決断を迫られるのはいつか

佐藤優 作家、元外務省主任分析官

 ロシアと欧米間で展開される「ウクライナ・ゲーム」が、ユーラシア地域のウクライナ人、ロシア人の民族意識を急激に変容させ、統制不能の民族紛争に発展する危険性を過小評価してはならない。

 まず、危惧されるのは、3月16日に予定されているウクライナ南部のクリミア自治共和国における住民投票だ。

 <クリミア自治共和国の親ロシア派のアクショノフ首相は「クリミアの独立」を飛び越えて、一気にロシアへの併合を求める方針にかじを切った。住民投票は、当初「ウクライナの中で、国家としての独立性を持つことに賛成するか」という内容が予定されていた。それが突然、「ロシアの一部になること」の是非を問う質問へと変更された。
 議会はさらに、住民投票の結果を待つことなく、ロシアへの帰属を決議した。この日記者会見したテミルガリエフ第1副首相は「我々はすでにロシアの一部だ」と言い切った。「住民投票で信任されれば、1、2カ月以内に住民はみなロシアのパスポートを持ち、通貨ルーブルを使うようになる」「ウクライナ軍は平和的に撤退できる」とも語った>(3月7日「朝日新聞デジタル」)

 当初、住民投票は、5月25日に予定されていた。それが3月30日に前倒しされ、さらに3月16日に早まった。これは、ロシアの支援なくして政治権力を維持することができないと考えるクリミア自治政府執行部の焦りを反映している。

 ロシアの当初のシナリオは、住民投票によって、クリミア自治共和国を「独立国家」とした上で、保護国にすることであった。そうすることによって、クリミアのセバストポリ軍港に対するロシアの管轄権は十分行使できる。国際的な非難に対しても、クリミアの領土保全を担保しているとの釈明が可能だ。

独立広場で、ロシアへの抗議デモをおこなクリミア・タタール人=2014年3月8日、ウクライナ・キエフ独立広場で、ロシアへの抗議デモをおこなクリミア・タタール人=2014年3月8日、ウクライナ・キエフ
 これに対し、クリミアを併合すると、国際社会からロシアは、秘密裏にロシア軍を現地に派遣し、領土拡張を行ったと非難され、制裁を受ける。

 3月16日の住民投票で、クリミア自治共和国が「ロシアの一部になること」が承認されるのは確実である。その後、ロシアのプーチン大統領は重大な決断を迫られる。

 住民投票の結果を尊重し、クリミアのロシア編入を認めた場合、ロシアは国際的に孤立する。

 さらにキエフの中央政府を支持するウクライナ人、先住民族であるクリミア・タタール人が、武器を用いて、

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