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ウクライナ危機で弱みを見せたロシアを地政学的に分析する

春名幹男 早稲田大学客員教授(米政治安保、インテリジェンス)

 プーチン・ロシア政権によるウクライナへの軍事介入は実は、大国の地位をかけたロシアの地政学的戦略だった。

 ウクライナ危機で最も傷ついたのはオバマ米大統領のように見える。米議会では、マケイン共和党上院議員が「だれも米国の力を信じないお粗末な外交の最終的結末」と痛烈に批判した。ワシントン・ポスト紙も「願望的(外交の)リスク」と指摘。ワシントンなどでは「弱いオバマ外交」の結果、ロシアにしてやられたという印象が強いのだ。

 だが、現実は違う。確かに6年目を迎えたオバマ政権は外交的成果が少ないが、地政学的観点から点検すると、全く異なる構図が浮かび上がる。

 ロシアのクリミア半島制圧は一見して攻撃的な軍事力の誇示とも見えるが、現実は「ロシアの弱さを反映したもの」とオバマ政権内のロシア専門家第一人者、ビル・バーンズ国務副長官は議会証言で述べた。ジェームズ・コリンズ元駐ロ米大使も、「経済成長の鈍化」などで「他にオプションがない」からだと指摘する。

 ロシアがクリミア半島を軍事的に確保しなければならなかった地政学的現実を掘り下げるとともに、中国を含む東アジア情勢への影響の有無を探ってみたい。

プーチンの地政学的拠点

 ウクライナは今度の政変で、1991年のソ連崩壊以後3度目の「革命」を経験した。

 最初は同年のソ連崩壊に伴う「独立」。

 2度目は「オレンジ革命」と呼ばれた2004~2005年の親欧米政権(ユーシェンコ大統領)誕生。そして今回、ヤヌコビッチ前大統領を打倒した革命(ロシアは違法な「クーデター」と呼んでいる)である。

 この間ロシアは、経済的、政治的圧力を加えて、北大西洋条約機構(NATO)加盟方針の撤回やクリミア半島セバストポリのロシア黒海艦隊基地の使用権を2042年まで延長することに成功してきた。2015年には旧ソ連構成国で結成する関税同盟「ユーラシア連合」にウクライナを加盟させる運びとなっていた。

 しかし、ヤヌコビッチ政権の経済失政、腐敗で国民の不満が爆発、政変が起きた。ウクライナでは反ロシアの機運が高まり、ネオファシスト的な勢力も増長、親欧米化は不可避。

 このままでは黒海艦隊基地が確保できなくなる――プーチン大統領はそう考えて、介入に踏み切った。各国の軍事アナリストらはそんな見方をしているのだ。

 不凍で深い天然の良港、防衛しやすい湾内の海軍基地を持つ戦略的要衝、クリミア半島の歴史的重要性は心理的にも大きい。

ロシア、ウクライナとクリミア半島拡大ロシア、ウクライナとクリミア半島
 ソ連崩壊後も、プーチン大統領はここを拠点に地中海、中東、アフリカに艦艇を派遣、「ロシアの力」を誇示してきた。劣勢だったシリアのアサド政権軍部隊はここから積み出した各種設備・武器の支援を得て盛り返した。

 向こう2、3年内に各6隻の新型潜水艦、フリゲート艦、さらにフランス製のヘリ空母も配備する計画だ。ここはプーチン大統領の地政学的野心を実現するために不可欠な拠点だ。

微妙な立場の中国

 オバマ政権はロシアの「孤立」を招くような制裁措置に言及しながら、現実にはメルケル・ドイツ首相らとの会談や米ロ外相会談では、ロシアの国益にも配慮した「出口」を探る動きも見せている。

 焦点となるのは、ロシアによるセバストポリ軍港の使用をめぐって妥協点をさぐることが可能かどうかだ。

 しかし早期に外交協議が進まず、3月16日のクリミア自治共和国の住民投票でロシアへの編入が決まって、現状が固定化されるような事態になれば、「新冷戦」のような形で米ロ対立が長期化する恐れもある。

 その場合、最も注目されるのは中国の出方である。 ・・・ログインして読む
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筆者

春名幹男

春名幹男(はるな・みきお) 早稲田大学客員教授(米政治安保、インテリジェンス)

1946年京都市生まれ。大阪外国語大学卒。共同通信社ニューヨーク支局、ワシントン支局、ワシントン支局長。名古屋大学大学院国際言語文化研究科教授をへて、現在、早稲田大学客員教授。ボーン・上田記念国際記者賞・日本記者クラブ賞受賞。著書に『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『秘密のファイル―CIAの対日工作』(共同通信社)など。

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