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河野談話への一貫した姿勢が日本の信頼を高める

金恵京 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

 3月14日、参議院予算委員会にて、1993年8月に当時の官房長官であった河野洋平氏が発表したいわゆる「河野談話」について、安倍晋三首相が「安倍政権で見直すことは考えていない」と述べたことで、2013年後半から続く河野談話見直しの議論に一定の決着がついた。

 翌日にはその対応を受けて、韓国の朴槿恵大統領も「幸いなこと」とのコメントを発表し、今後の北東アジア関係改善に対して期待をこめている。両首脳の就任以来、1年以上が経過しながら首脳会談が開かれておらず、日韓両国ばかりでなく、アメリカをも巻き込んだ折衝が行われている状況がやや改善を見せているといえよう。

 ただし、14日の同委員会では菅義偉官房長官より「河野談話作成過程の実態を把握することが必要で、しかるべき形で明らかにすべき」との発言も同時に行われており、単純に河野談話の内容を安倍政権が受け入れるわけではないと捉えられている。

 政府による検証が行われ、否定的な言質が喧伝されれば、談話の見直しはなされなくとも発言は有名無実化する。産経新聞はその矛盾を「珍説」と呼び、韓国の外交部(日本の外務省に当たる)も「今日の発言の誠意は今後の日本政府と政治指導者の行動にかかっていることを強調する」と懸念を述べている。

 私は今回の河野談話の検証や見直しに関して、目指す意図が日本の過去に対する正当化にあるならば行うべきではなく、日本が歴史問題に対する一貫した姿勢を示さなければ、長期的な日韓関係は改善しないとの立場をとってきた。そのため、今回の事態が一定の決着を見たことに関して安堵はしているものの、今後の対応についての筋の通った指針も併せて表明されるべきと考えている。

 そもそも、河野談話は宮沢喜一内閣時の政府調査に立脚するもので、日本軍の慰安婦への関与を政府が認めたものと国際的に認識されている。一方で、同談話において慰安婦の証言に基づき「官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった」の文言が入ったことに対して、疑義を唱える者も従来から日本国内では少なくなかった。

 そして、2013年10月16日の産経新聞で当時の報告書を入手したことを受けて「証言の事実関係はあいまいで別の機会での発言との食い違いも目立つ」とされた記事が掲載されたことが世論に火をつける形となった。

 それに伴い、当初問題とされていた一部官憲の関与だけでなく、河野談話そのものの正当性や、近年の韓国政府の対応についても非難の声が一層高まるに至り、歴史の資料の取り扱いに関する問題を離れ、河野談話が政治問題あるいは社会問題として注目されることとなったのである。

 確かに、このところの韓国政府の歴史問題に対する姿勢が強硬なことは間違いないが、それに合わせて日本政府が自らの過去の発言まで修正していては、両国関係が負のスパイラルに陥るだけである。

 まず、現在の問題の前提として考えなければならないのは、河野談話で指摘された日本軍による慰安婦の募集要請、戦地への輸送、健康管理といった関与の事実については多くの検証が既になされ、議論の余地はなく決着した事実となっている点である。

 また、第二次世界大戦当時、日本軍は従軍慰安婦の管理を進めていながら、故意か否かは判断しかねるものの関係資料をほとんど残しておらず、慰安婦の全体的な人数すら確定し得ない点も前提として理解されなければならない。遺棄された慰安婦に関わる資料の多さが、問題を複雑にしているのである。

 換言すれば、従軍慰安婦に関しては「資料がない以上、事実を証明できない」と見るか、「口述資料を重視する」と見るかとの立場の相違が生じざるを得ない。ただし、資料の不在を既に理解していた河野談話発表当時の日韓両国の関係者は、当事者からの聞き取りを踏まえて、同談話の内容を記したのである。

 そうした立場や見方に基づき、河野談話は内閣の意思として発表され、国際的にも受け止められてきた。もちろん、日本が軍の関与を認めたことで国際的な評価が低下した部分はあるが、問題なのは、談話が発表されて20年近くが経った後も日本に対する評価が回復しなかったことではないだろうか。

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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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