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サッカーファンの名誉を挽回する(上)――人種差別に立ち向かった浦和レッズのサポーターたち

五野井郁夫 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

 人種、性、言語、宗教、政治又はその他の事由を理由とする国家、個人又は集団に対する差別は、いかなるものであれ、厳格に禁止されるものとし、これに反する場合には、本規程及びその附属規程に従って懲罰の理由とされることがある。(公益財団法人日本サッカー協会 基本規程 第1章 総則〔遵守義務〕第3条、1頁)

 今から54年前の1960年3月21日、南アフリカでアパルトヘイト(人種隔離政策)に反対する市民69人が、武装警官によって虐殺されるという悲劇が起きた。この事件が契機となり、国際社会から人種差別反対の声が高まったことを受け、国連は「人種差別撤廃条約」を採択し、毎年3月21日を「国際人種差別撤廃デー」と定めた。

 現在、日本の人種差別に対する取り組みはどうなっているのだろうか。

 3月16日、差別主義者集団の在特会(在日特権を許さない市民の会)によって、東京・豊島区が使用を許可した豊島公会堂での集会と差別デモからなる「春のザイトク祭り RETURN」が行われた。公会堂を借りたにもかかわらず、100名ほどしか集まらなかった差別主義者らに比して、差別に反対するカウンター側は300名を超えた。

 そのカウンター側には、全身を浦和レッズのカラーで身を包み「Show Racism the Red Card」(レイシズムにレッドカードを!)というプラカードを掲げた、浦和レッズのサポーターらの堂々たる姿があった。日本サッカー協会の規定にもあるように、いかなる差別も許さないというサッカーファンとしての強い姿勢が、そのサポーターたちからは感じられた。

3月16日、在特会の差別に対してカウンターを掲げる浦和レッズサポーター=lacoue氏提供拡大在特会の差別に対してカウンターを掲げる浦和レッズのサポーター=3月16日、提供・lacoue氏
 レッズのサポーターに限らず、ヘイトスピーチに抗するためのカウンターに駆けつけて、差別と差別主義者に対してしっかり「NO!」を表明するサッカーファンのカウンター参加者は多い(写真 3月16日、在特会の差別に対してカウンターを掲げる浦和レッズサポーター=lacoue氏提供)。

 その意味で、3月8日に埼玉スタジアムで行われた試合での浦和レッズをめぐる事件は、ごく一部の心ない者による行為であった。J1浦和レッズのホーム試合のさい、サポーター席の出入り口に「JAPANESE ONLY」と書かれた横断幕が掲げられたのである。

 朝日新聞によれば、試合当日、20年近く浦和を応援しているサポーターの1人が前半20分ごろに会場に到着して横断幕に気付き、観客席の出入り口に掲げられていた文言や日の丸、旭日旗などを見て「これはやばい」と思いハーフタイム中に運営側の責任者に対して、「人種差別的な内容であり、放置するべきではない」と伝えたという。

 横断幕自体は、試合終了後になってやっと強制撤去された。浦和のサポーターのみならず、筆者も含めて多くのサッカーファンの間にイヤな記憶が甦ったことは云うまでもない。それもそのはずである。かつても浦和レッズをめぐっては、2010年5月15日に宮城スタジアムで行われたJ1仙台戦でも、サポーターが差別的な野次を外国人選手に向けて飛ばしたとして、譴責と制裁金500万円を科されるなどの前例があるからだ。

 横断幕を掲げたのは3名おり、朝日新聞の取材によれば、かれらはクラブの調査に対して「最近、海外からの観光客が増えて応援の統制が取れなくなっている」「(横断幕を掲げた入り口がある)ゴール裏は『聖域』。自分たちが応援してきた場所」と横断幕掲出の理由を説明し、「差別的意図はなかった」と話しているという。

 だが、3月15日の参議院法務委員会では、同事件にかんする有田芳生議員の質問に対して、木原誠二外務大臣政務官が、かつての米国やアパルトヘイト政策が採られた南アフリカにおいて「WHITE ONLY」(白人以外、お断り)が白人のみを優遇するためにとられていた政策であると答弁した。

 このように差別表現であることは世界中どこでも周知の事実であるため、「JAPANESE ONLY」も「日本人以外、お断り」という差別的な表現とは別様の解釈をすることはかなり困難である。

 同委員会で谷垣禎一法務大臣は「わたくし昔ある店に行きましたら、断られたことがございます。『一見さんはおことわりや』といって入れてもらえなかった。それとJAPANESE ONLYとはどう違うのか」としつつも、今回の浦和レッズの案件については「確かに人種差別的な意味でわたくしも違うだろうと思う」と問題視した上で

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筆者

五野井郁夫

五野井郁夫(ごのい・いくお) 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

高千穂大学経営学部教授/国際基督教大学社会科学研究所研究員。1979年、東京都生まれ。上智大学法学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了(学術博士)。日本学術振興会特別研究員、立教大学法学部助教を経て現職。専門は政治学・国際関係論。おもに民主主義論を研究。著書に『「デモ」とは何か――変貌する直接民主主義』(NHKブックス)、共編著に『リベラル再起動のために』(毎日新聞出版)、共訳書にウィリアム・コノリー『プルーラリズム』(岩波書店)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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