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サッカーファンの名誉を挽回する(下)――スポーツが持つ自浄能力

五野井郁夫 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

 わたしは、親善試合を見に行ったとき、会場の盛り上がりに感化されてサッカーの面白さを知った。日本がW杯本戦の出場を逃した93年の“ドーハの悲劇”のときは、ブラジル出身のラモスが、日本人といっしょに涙を流して悔しがった。いまも三都主の活躍にみんなが心から拍手をおくる。日の丸の旗のもとに戦った者は、出身国がどこであろうと仲間であるという意識、それは共同体にたいする帰属意識、というよりほかにいいようがない(安倍晋三「移民チームでW杯に優勝したフランス」より)。

 スポーツは国や人種を超えて愛されるものだ。それは、サッカーも同じである。ごく一握りの心ないサポーターの心ない行為によって、傷ついたのは差別された人々、他のサポーターたち、世界中のサッカーファン、そして他でもない、浦和の選手たちであろう。

 事件当日の夜には、DFの槙野智章が「今日の試合負けた以上にもっと残念な事があった…。浦和という看板を背負い、袖を通して一生懸命闘い、誇りをもってこのチームで闘う選手に対してこれはない。こういう事をしているようでは、選手とサポーターが一つになれないし、結果も出ない…」と悲痛なツイートを残している。

 この差別横断幕の掲出事件に対する、サッカーファンたちの初動対応には目を見張るものがあった。事件が起きた翌日3月9日には、Jリーグのクラブの垣根を越えたサポーター間の連携によってレイシズムに反対する旨が表明されたのである。

FC岐阜の試合で掲げられた反人種差別を訴える横断幕=9日、岐阜市の長良川競技場、FC岐阜サポーター提供拡大FC岐阜の試合で掲げられた反人種差別を訴える横断幕=3月9日、岐阜市の長良川競技場、提供・FC岐阜サポーター
 サッカーJ2・FC岐阜のサポーターらが岐阜市であったホーム戦のなかで、人種差別反対を訴える「Say NO to Racism」(人種差別にノーと言おう)という大横断幕が掲げられた(写真 FC岐阜の試合で掲げられた反人種差別を訴える横断幕=9日、岐阜市の長良川競技場、FC岐阜サポーター提供)。

 これは、在特会のデモに対するカウンターとしてヘイトスピーチに立ち向かった浦和レッズサポーター同様に、サッカーファンは、いかなる差別も絶対に許さないという意志の表明である。

 しかも、こうしたファンたちによる反レイシズムの意思標示は、誰かに強制されてやるのではなしに、サポーターたちが自らの意志で自主的に行っている。

 この自浄能力こそ、サッカーというスポーツの持つ力だ。差別を許さないサポーターたちの行動は、人々が国や人種をのりこえて、スポーツという強い絆でつながることが出来ると実感させてくれた。

 なお、今回の浦和レッズの事件について、Jリーグ側は(1)譴責(始末書をとり、将来を戒める)、ならびに(2)無観客試合の開催(入場者のいない試合を開催させる)という、極めて厳しい制裁措置をとった。理由は以下のようなものである。

 浦和レッズは、スタジアム内において不適切な内容が書かれた横断幕が掲出されたにもかかわらず、試合終了後まで当該横断幕を撤去できなかった。
 当該横断幕の記載内容は「JAPANESE ONLY」であり、差別表現と受け止めた方もいることから、その掲出意図に関わらず差別的内容と判断できる。
 これを受け、Jリーグにおいても、Jリーグ所属クラブに対する周知徹底を行ったり、トラブル事案が起こった際のマッチコミッショナーの手続きを定めたり、FIFA等における判例を調査し各クラブに周知する等の対策を実施している。
 浦和レッズは2010年に、サポーターが本件と類似したトラブルを起こしたことによって制裁を受けており、本件は累犯となる。また、2010年に制裁を受けた事実以外にも浦和サポーターは、これまでも度々トラブルを起こしている。
 浦和レッズは、過去にサポータートラブルの件でJリーグから再三の制裁を科されているにも関わらず、本件のような結果に至った責任は非常に重大である(「ホームゲームにおける差別的な内容の横断幕掲出に対し浦和レッズに制裁を決定」2014年3月13日(木))。

 これをうけて浦和側はシーズンパスを含めたチケット約2万6000枚の払い戻しだけでなく、遠方からの観戦に伴う飛行機などの交通費、ツアー料金、宿泊代のキャンセル手数料も支払うことを決定した。かなりのペナルティであるが、差別で人を傷つける可能性があるとは、これほど重い事態なのである。

 他方で制裁決定後直後の3月14日、在特会関係者らは日本サッカー協会前で抗議街宣を行った。彼らによれば日本サッカー協会は弱腰の対応であり、「JAPANESE ONLY」についても

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筆者

五野井郁夫

五野井郁夫(ごのい・いくお) 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

高千穂大学経営学部教授/国際基督教大学社会科学研究所研究員。1979年、東京都生まれ。上智大学法学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了(学術博士)。日本学術振興会特別研究員、立教大学法学部助教を経て現職。専門は政治学・国際関係論。おもに民主主義論を研究。著書に『「デモ」とは何か――変貌する直接民主主義』(NHKブックス)、共編著に『リベラル再起動のために』(毎日新聞出版)、共訳書にウィリアム・コノリー『プルーラリズム』(岩波書店)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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