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緊張呼ぶウクライナ国境のロシア軍。プーチン氏の胸中は?

大野正美 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

 ロシアはクリミア半島を3月に併合した後も、ウクライナとの国境に大規模な軍部隊を集結させたままだ。4月2日には北太平洋条約機構(NATO)のブリードラブ最高司令官が、「兵員は約4万人で空軍の支援も準備され、野戦病院から電子戦遂行の設備まである。ウクライナに侵攻すれば、3~5日で目的を達成できる」との見方を示した。国際社会の緊張は高まる一方である。

 そんなおり、「危機の先鋭な局面は過ぎ去った。プーチン(ロシア大統領)は軍部隊をウクライナ東部に投入する危険を犯さないことに決めた」とする大胆な見解がロシアに現れ、反響を呼んでいる。野党系の政治学者ドミトリー・オレシキン氏(60)が、ロシアの独立系ラジオ「モスクワのこだま」のネット版ブログに発表した論評がそれだ。

オレシキン氏=2012年2月、撮影・筆者拡大ドミトリー・オレシキン氏=2012年2月、撮影・筆者
 かつてオレシキン氏は、プーチン氏からメドベージェフ前大統領への権力の移動に伴う政権内の勢力グループ間の抗争を静め、結束を取り戻すためには「小さな勝てる戦争が必要だ」とし、2008年夏のグルジア戦争の発生を言い当てた。

 ロシア内外の条件からクレムリンの対外政策を分析し、今後を占う識見には独特の鋭さがある。ウクライナ情勢の今後を考えるのにも役に立つと思われるので、紹介したい。

 まずオレシキン氏は、クリミアを併合した結果、ロシアにウクライナへの軍部隊侵攻の検討を必要とさせる二つの深刻な問題が生じたとする。

 ひとつは「クリミア半島が、水も電力もガスも通信も食糧も大部分をウクライナ本土に依存し、『包囲された飛び地』の状態にある」こと、もうひとつは「ウクライナの隣のモルドバで事実上独立状態にありながら国際的に承認されていない『非承認国家』沿ドニエストル」の問題だ。

 水や電気、ガスなどを使ったウクライナの「兵糧攻め」には極めてもろい。なのに、クリミア半島は港湾機能が貧弱なうえ、ロシア側からの橋などをかけるにも優に3~4年は必要だ。インフラの整備には、膨大な金もかかる。それなら豊かな水源のドニエブル流域があり、電気やガスの幹線も通るウクライナの東南部を押さえた方が、手っ取り早い。

沿ドニエストル拡大沿ドニエストル
 一方、沿ドニエストルではソ連崩壊後ずっと、多数派のロシア系住民がつくる「政府」を、現地に駐留するロシア軍部隊がモルドバ側の介入から守ってきた。

 さらに、ロシアは沿ドニエストルを、間にあるウクライナを通って天然ガスをはじめとする物資を供給することで、その経済を支えてきた。ところが、クリミア併合でロシアとウクライナの関係は急速に悪化した。こうして沿ドニエストルも、ウクライナの意向に大きく揺さぶられる脆弱さを抱えることとなった。

 二つの問題をロシアが一気に解決しようとすれば、ウクライナに軍部隊を投入し、最東部のルガンスクから南部のクリミア半島とオデッサ、さらに沿ドニエストルとの境界までをつなぐ回廊を確保するしかない、とオレシキン氏は見る。

 期せずしてブリードラブ司令官も、オレシキン氏と全く同じルートによる回廊の創設を、ロシア軍の侵攻目的にあげているのは象徴的だ。

 しかし、オレシキン氏によると、そうした軍事の論理は政治の論理と対立し、最終的にクレムリンは軍部隊の侵攻回避を選択した。「政治の論理」とは次のようなものだ。

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筆者

大野正美

大野正美(おおの・まさみ) 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

1980年、朝日新聞社入社。水戸支局、外報部、東京社会部などを経て、1986年からサンクトペテルブルクに留学、モスクワ支局勤務は3回計11年。論説委員、編集委員、国際報道部・機動特派員を経て、現在は報道局夕刊企画班。著書に『メドベージェフ――ロシア第三代大統領の実像』『グルジア戦争とは何だったか』(いずれもユーラシア・ブックレット、東洋書店)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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