2014年04月19日
「未知数は多いが、相当無理をすれば迎撃できなくはない」
日本の弾道ミサイル迎撃(BMD)能力をよく知る政府関係者は、筆者とのある雑談の席で、こう前置きして語り始めた。安倍晋三首相が集団的自衛権の行使容認の具体例としてよく挙げる、米国に向かう弾道ミサイルの迎撃についてである。
第1次安倍政権の時にできた首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」は、2008年にまとめた報告書で「能力があるなら、撃ち落とさないという選択はありえない」として集団的自衛権の行使を認めるよう求めた。安倍氏は第2次政権でも「日本に落ちてくるミサイルは落とすけれども、グアムに飛んでいくミサイルはパスしてもいいのか」と国会でしきりに煽っている。
あたかも日本に能力があるかのように響く。しかしBMD能力はどの国にとっても最高レベルの軍事機密にあたる。たとえ首相であっても真相を明かすわけにはいかない。それを逆手にとっているのか、できないものをできると強弁しているような印象さえ受ける。本当のところはどうなのか。
北朝鮮のテポドン1が初めて日本上空をまたいだのは1998年。政府はこれまでに1兆円を超す巨費を投じて迎撃網の整備を急いできた。日本のほぼ全域に届くノドン(射程約1300キロ)については、すでに海上自衛隊のイージス艦から発射するSM3、航空自衛隊の地上発射型のPAC3による2層式の迎撃ミサイル網が構築されている。防衛省高官は「迎撃率は8~9割」と胸を張る。
イージス艦の甲板上から発射された後、レーダーなどで目標をとらえ赤外線で位置を確かめながら接近。弾道ミサイルが大気圏外で慣性飛行に移って速度が落ちる「ミッドコース」段階を選んで、体当たりして破壊する。
しかし現在のSM3(ブロック1A)は敵の中距離弾道ミサイル(約1000~3500キロ)を撃ち落とす目的で開発されたものだ。射程1万キロを超す大陸間弾道ミサイル(ICBM)の迎撃は最初から目指していない。
北朝鮮のミサイル開発のねらいが、米本土の攻撃能力の保有にあることは明らかだ。
2012年12月に発射したテポドン2改良型の射程は、米西海岸に届く1万キロ以上と推定されている。
米国政府が想定したより「少し早いピッチ」(ペンタゴン高官)で進む開発ペースに対し、オバマ政権は米本土の防空網の強化を表明。13年3月に、アラスカ・カリフォルニア両州に地上配備している迎撃ミサイル(GBI)の数を、今の33基から45基に増やすと発表した。米側の要請で京都府の自衛隊レーダーサイトに米軍の2基目のXバンドレーダーが設置されるのもその一環だ。
しかし今や状況は大きく様変わりしつつある。米国自身が日本の助けを借りることなく本土防衛のために本気で迎撃網を築こうとしているからだ。
安倍首相が言うように、日本は何か期待されているのだろうか。
この政府関係者は「日米のイージス艦が現在、搭載している今のSM3(ブロック1A)では不可能に近い」と言い切る。
世界の研究者の間で推定されているブロック1Aの有効射程は700キロ前後、高度は500キロ前後とされる。BMDに詳しい宇宙工学アナリストの中冨信夫氏も「迎撃できるかどうかは、彼我のミサイルの速度や有効射程、誘導方式などからある程度推測できる」とそうした見方を裏付ける。
ブロック1Aが過去に目標破壊に成功した時の迎撃高度は約160~250キロ。最高高度が約300キロのノドンなら、ミッドコースと呼ばれる頂点前後の段階で迎撃可能とされる。しかし北朝鮮から約3500キロ離れたグアムを狙うミサイルだと最高で高度約600キロ以上、1万キロの米西海岸向けなら約1000キロ以上に達し、ブロック1Aの追尾能力をはるかに上回る。
そこで注目されるのが、日米両政府が18年に試作品完成をめざして共同開発している
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