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選挙権年齢の引き下げと「政治的成人」年齢(下)――衆愚政にならないために

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

党派を超えた政治的理性と成熟

 この論点について改めて認識しておくべき重要な問題は、党派を超えて民主主義が健全に発展するためには、政治参加において一定の人格的成長と理性的判断が必要である、ということである。古典的には、アテネの民主政は優れた政治的指導者の没後には衆愚政に転落してしまった。

 だから、近代の議会政治においては、当初は有権者に一定の教養と識見が存在することが必要と考えられ、財産などによる選挙権の制限が正当化されていた。財産と教養に基づく政治的理性の存在が議会政治には必要視されたのである。

 普通選挙の導入は民主主義の確立にとって必要不可欠なことであったが、半面では教養や識見という条件は失われた。ここに「大衆民主主義」の時代が訪れたのである。無産階層の人びとが有権者となることによって福祉などの充実が図られるようになった一方で、十分な情報や自立的な思考なしに時々の雰囲気に流されて投票する人びとが増加してきた。

 このため、デマゴーグや扇動が効果的になってしまい、独伊においてはファシズム政党が一定程度までは「民主主義」的に得票を伸ばしていったのである。これは、近現代における衆愚政に他ならない。

 現在の日本においては、再びナショナリスティックな議論が強力になり、国会にも極右的な政治家が進出している。このような中にあっては、衆愚政が再現しないように、改めて健全な民主政においては政治参加に際して一定の情報・教養・識見などが必要なことを銘記すべきだろう。

政治的成人とは

 そのためには、支持政党の左右を超えて、有権者には政治的理性が必要であり、一定の人格的な成熟が必要である。このような人びとを「政治的成人」と呼ぶことにしよう。

 実際には、人ごとに人格的な成熟の時期は異なるが、選挙権を考えるためには、より多くの若者が「政治的成人」とみなせるような年齢を選ぶべきだろう。この政治的成人の年齢は、一般的な成人年齢と関係はしているが、必ずしも同じとは限らない。民法上の成人が、ただちに政治的にも成人とみなせるかどうかは、わからないのである。

 時折、日本がアメリカと戦争したことがあると聞いて、驚く20代の若者がいると聞く。今の首相の名前や、その政党を知らない若者もいるだろう。憲法の基本中の基本も知らない若者もいるに違いない。このような若者を「政治的成人」とみなせるだろうか。

 もしかすると、18歳以上20歳未満というだけではなく、20代以上の若者、さらには30代以上の人びとの中にも、「政治的成人」とはみなせない人が増加しているのではないだろうか。

政治的成人をどのように育成すればいいか

 戦前においては、1925年に普通選挙権が実現して政党政治が成立したものの、同時に治安維持法が成立し、その7年後には5・15のクーデターにより政党内閣期が終了して軍国主義が勝利していった。

 現在も、2009年に政権交代は実現したものの、2012年には安倍政権が成立して自民党中心の政権に回帰して、2013年にはインターネット選挙が部分的ながら解禁されると同時に、秘密保護法が成立した。今年は、集団的自衛権の容認が政権から提起されている。

 2013年のインターネット・デモクラシーの部分的解禁は、民主主義の進展において新しい段階を意味しているだろう。そして、国民投票や選挙権の年齢の引き下げも、海外においては、政治参加の促進という点で民主主義の前進とも言える側面を持っている。

 けれども、それによって日本における民主主義の将来を単純に楽観視するわけにはいかない。 ・・・ログインして読む
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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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