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韓国・セウォル号沈没事故は関係者のみの人災ではない

金恵京 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

 4月16日に発生し、300人以上の死者および行方不明者を出したセウォル号の沈没事故に関して、韓国国内では政府に対する批判が高まり、4月27日、チョン・ホンウォン首相が辞意を表明した。大統領制を敷いているとはいえ、一国の首相が民間企業の起こした事故の責任をとって辞任したという事実は、その影響の大きさを物語っている。

 この事故では、経験の浅い航海士による誤った航行、船員の偽装退避、過積載、不十分な積荷の固定、過剰増築に対する認証、誤った退避勧告、被害者家族に対する心無い対応などが折り重なるように発生し、船会社だけでなく、政府、延(ひ)いては韓国社会全体の問題とする論調が国内を覆っている。

 加えて、人々の信頼を受けるべき輸送会社や政府に大きな不備があったということで、どん底の状況から先進国にたどり着いたという国民の誇りも大きく傷ついた。

 また、日本の報道では余り触れられていないが、韓国人はこの事態に対して、酷く嘆き悲しんでおり、筆者が友人や家族とそのことを話していると、急に声に詰まることも珍しくない。

沈没現場に近い彭木(ペンモク)港の防波堤に結びつけられた黄色いリボン。「会いたい我が子よ 早く戻ってきて」と書かれている=2014年4月30日、、韓国・珍島拡大沈没現場に近い彭木(ペンモク)港の防波堤に結びつけられた黄色いリボン。「会いたい我が子よ 早く戻ってきて」と書かれている=2014年4月30日、、韓国・珍島
 未来ある高校生を含む多くの人々が命を落とし、今も暗い海の中に居ると思うと心が張り裂けそうな思いに駆られる。

 全国各地での追悼集会や焼香場の祈りや、犠牲者へのメッセージは様々な報道によって全国民が共有しているといって良い。一部の人に至っては、日々映像で流される犠牲者やその家族の様子を見ることで、精神的な疾患を発症することもあると聞く。

 そうした状況を見ていると、一つの疑問が生じる。

 「なぜ、それだけ犠牲者を悼む気持ちのある国民が、こうした人災を引き起こしたのだろうか」と。

 悲劇に胸を痛める心と、関係者のずさんさ。その両者の間の溝は一見果てしなく遠いように思える。

 しかし、

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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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