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国益のために国内ヘリ産業を潰すべきだ

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 防衛省はヘリコプターの国内調達を止めるべきだ。

 同じ敗戦国であったイタリアでも、当初アグスタ社はベル社のライセンス生産から始めて、その後英国のウエストランド社を吸収して世界第2位のメーカーになっている。同社にしても世界1位のエアバス・ヘリコプターズ社にしても、小型の民間機に傾注して業績を伸ばした。

 しかもエアラインだけが対象顧客の旅客機などと異なり、ヘリコプターには地方自治体や企業、個人に至るまで幅広いユーザーが存在する。また攻撃ヘリなどを除けば軍民市場の垣根も低い。しかも我が国は世界有数の国内市場を持っている。つまりヘリコプターは海外の軍事市場に参入が難しい我が国の航空産業にとって比較的参入し易い分野だった。

 だが我が国のヘリコプター産業は防衛省に依存しており、国内外の市場に進出して自立する気が全くない。これを防衛費という税金で養う意義はない。

 海外は元より、国内の民間市場でも川崎重工がエアバス・ヘリコプターズ社(元ユーロコプター)と70年代に開発したBK117/EC145を除いて、国産ヘリは存在しない。90年代に三菱重工が開発したMH2000はわずか数機しか売れなかった。

 当然ながら内外の非軍事市場、すなわち民間市場は警察、消防、海上保安庁、地方自治体に至るまで、BK117/EC145を除けば国内のヘリメーカーのシェアはゼロだ。つまり殆ど防衛省の予算に頼っている。川崎重工にしてもジョイントベンチャーで世界市場を志向していのは70年代までで、以後そのような動きもない。

 これではとても「産業」とは呼べない。

 いつまでも防衛省の多大な予算をつぎ込んで国債価格の何倍も高いヘリを調達してまで、寄生虫のようなヘリコプター産業を維持するメリットは国防上も産業上もない。また政府にも防衛省にも経産省にもヘリコプター産業を育てていくというグランドデザインが存在しない。

 我が国にはヘリの機体メーカーとして、川崎重工、三菱重工、富士重工のいわゆる「重工3社」があり、ヘリ用エンジンは川崎重工、三菱重工の2社が存在する。

 だが世界では業界再編が進んでいる。欧州ではエアバス・ヘリコプターズとアグスタウェストランドの2社に集約されており、ロシアも中国もヘリメーカーは集約されている。

 ヘリメーカーが複数存在できているのは我が国を除けば世界最大の市場である米国ぐらいだ。対して我が国は世界2位とも3位とも言われる有数のヘリコプター市場であるが、前記のように民間(軍隊以外の公的機関含む)での市場ではシェアが事実上ゼロであり、防衛省の予算を3社が仲良く分けあってきた。

 つまり事実上の独占国営企業と同じだ。このような危機感も緊張感もない「親方日の丸」体質では自衛隊用のヘリにしてもマトモなものは開発できない。

 国内メーカーの自衛隊向けヘリは陸自の偵察ヘリ、OH-1以外はライセンス生産だが、最近は調達機数が減っており、国内でのコンポーネントの自製化が減り、事実上単なる組み立て生産が主流になりつつある。

 にもかかわらず、調達コストは輸入に比べて概ね2~3倍も高い。かつて国内でライセンス調達されたAH-1Sは米国ですでに生産が中止され、更に次世代のAH-64の生産も終わっていたのに、漫然と生産が続けられた。陸自は一世代古い攻撃ヘリを最も高い時は米軍調達価格の約6倍で調達していたのだ。OH-1に関しても1機あたり約24億円とコストが高すぎて調達数は250機から34機まで減らされている。

 防衛省にはまともにヘリコプターを開発し、振興する能力も覚悟もないのだ。

 2012年、陸自のUH-X(次期多用途ヘリ)開発が官製談合スキャンダルで仕切り直しとなったが、UH-Xはこの、高額で失敗作だったOH-1を拡大して新型機を調達単価12億円で作り、さらに「民間転用も考える」と大風呂敷を広げていた。

 陸自の案の三菱重工が開発するエンジンXTS-2はOH-1のエンジン、TS-1の拡大型で調達単価が4億円と見積もられていた。双発なのでこれを2基搭載する。であればエンジンだけでも8億円になる。調達単価12億円は始めから不可能で画餅に過ぎない。

 自衛隊ではできない調達単価をできるとして恥じない「風土」がある。

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