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「東海」表記 韓国系の権利獲得の面も

春木育美(東洋英和女学院大准教授)

 米国で韓国系市民が、旧日本軍慰安婦の少女像や碑を建設したり、公立学校教科書の日本海の表記について韓国が主張している「東海」とするよう求めたりする運動を広げている。こうした一連の動きを反日活動として切り捨てるのは早計だ。米国への移民の歴史が比較的浅い韓国系の人たちの権利獲得のための動きであり、本国に存在感を誇示する側面もある。

AJWフォーラム英語版論文

 バージニア州議会下院が2月6日、教科書の「東海併記」を定める法案を可決すると、私が滞在していた首都ワシントンの韓国系コミュニティーは、祝賀ムードに包まれた。韓国本国からは「誇らしい愛国者だ」という称賛がSNSを通じて殺到、韓国政府は「同胞たちの努力を高く評価する」とコメントした。

傍聴席で審議の行方を見守る韓国系米国人ら=2014年2月6日、バージニア州リッチモンド 拡大傍聴席で審議の行方を見守る韓国系米国人ら=2014年2月6日、バージニア州リッチモンド

 慰安婦像建立や「東海」問題は、日本の植民地支配に関わる歴史問題とされ、世代や学歴、職業、滞在資格、成功者か否かに関わらず、韓国系市民が一致団結しやすい。米国での政治力を高める活動を進めている彼らにとって、低コストで高い効果が得られるテーマなのだ。

 韓国人の米国への移民の歴史は比較的浅い。今も移住者が後を絶たず、層の厚い1世が常に存在する。家庭で韓国語を話し、韓国語のメディアを見聞きし、ネットやSNSを通じて本国の現状をつかむ。同郷団体や同窓会、職業別団体、老人会などをつくり、相互扶助と人的ネットワークの宝庫である韓国人教会に通う。

 様々な移民が集まった米国社会で暮らすからこそ、民族意識の保持には敏感だ。本国の経済発展で、自らが韓国系であることを肯定的に捉えるようになった。さらに日韓関係がこじれるほど、反作用として民族意識が高まる。

 米国は州や郡ごとに法律や規制が大きく異なり、地方議員とのつながりは極めて重要だ。「東海」問題では、議員へのメールや電話攻勢、陳情を繰り返した。自営業者の多い韓国系市民にとって、州や郡の法律や規制は死活的であり、今回、行政や立法機関に自らの「政治的な声」を反映させ、目的を達成するノウハウを得たことは大きな収穫だった。

 韓国本国への政治戦略も働く。彼らは、移民2世に韓国での兵役義務が課されないようにするための法律改正、就労ビザの拡大などを要求している。米国での韓国系市民の政治力が高まれば、韓国政府も彼らへの配慮を怠れなくなる。彼らの運動の背後には、いくつもの目的が絡み合っているのだ。

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春木育美(はるき・いくみ)/東洋英和女学院大准教授(韓国社会論)
韓国延世大学大学院で修士号、同志社大学大学院で博士号取得(社会学)。編著書に「韓国の少子高齢化と格差社会」(慶応義塾大学出版会)、「現代韓国の家族政策」(行路社)、「現代韓国と女性」(新幹社)など。現在取り組んでいるテーマは、少子高齢化と移民政策、朴正煕時代の政治変動と「国民」形成、在米コリアンコミュニティ研究など。