2014年05月21日
安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(以下、安保法制懇)の報告書(以下、本報告書)が公表された。広く指摘されるように、懇談会のメンバーに憲法解釈の専門家はおらず、外交官と歴史家で占められている。唯一の憲法学者も、憲法解釈論で評価されている人物ではない。
こうしたメンバーにより作成された本報告書の憲法解釈は、およそ法律家には受け容れ難いものである。率直に言うなら、まともに相手をする水準ではない。
しかし、これは、どこかの私的な趣味サークルの発表した報告書ではない。内閣という国家の中心的機関が政策決定の参考にしようというのだから、憲法解釈学の専門家の一人として、放置するわけにはいかない。
本報告書や、それを受けた安倍首相の会見については、情緒に訴えようとする政治的態度の不誠実さ、安全保障政策上の現実味の無さ、法的安定性の軽視など、様々な人々が様々な批判を展開しているので、そちらを参照して頂ければと思う。
私としては、次の点に着目したい。それは、本報告書に従って集団的自衛権を行使すれば、政府は巨大な訴訟リスクを抱え込むことになるだろう、ということである。
具体的には、本報告書の主張する無理な憲法解釈論を基に自衛隊を派遣すれば、派遣命令を出した首相や自衛隊幹部が職権濫用罪に問われる危険がある。また、違憲な自衛隊の活動により生じる、莫大な損害の賠償責任を負う可能性が高い。
もちろん、判決が出るまでには時間がかかる。しかし、だからと言って、タイムラグを利用して、違憲・違法な行為をやっていいということにはならない。各世論調査で明らかなように、本報告書に基づく憲法解釈には反対する国民が多い。国内政治は、明らかに不安定になるだろう。
また、自衛隊員の中にも、当然、自らの従事する活動についての合憲性・合法性についての疑念が生じることだろう。判決は出ていなくても、そうした訴訟が提起されているという事実だけでも、自衛隊の活動の正当性への疑念は高まる。自衛隊の規律は乱れ、関係国にも、自衛隊員にも、計り知れない迷惑をかけることになろう。
さらに視野を広げるならば、憲法も世論も無視して独断で活動する日本政府に対し、国際社会も疑念を生じるはずである。違憲判決が出れば、
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