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握手会への提案――手間や負担はやむを得ない

鈴木崇弘 城西国際大学客員教授(政治学)

 社会現象ともいわれるAKB48。

 会いに行けるアイドル。ファンとしてアイドルを育てることができる参加型ゲームの仕組みなどなど。まさに日本人好みのテイスト満載のアイドルグループだ。

 AKB48を中核とするAKBグループは、アイドルグループ嵐などが所属するジャニーズ事務所と共に、現在の芸能界を代表する2大勢力の一つである。そのAKBが売りにしてきた主要戦略の一つが「握手会」だ。その握手会中に、AKBメンバーが切りつけられるという事件が起きた。

 まず、ご存じない方のために、「握手会」について、説明しておこう。

 主に、書籍やCD、DVD、カレンダー等の発売記念に、購入者の特典などとして、そのアイドルやアーティストと交流するために開催されるイベントである。対象商品を購入し握手会の整理券を受け取るか、商品に握手券が封入されている場合などがあり(今回のAKBの場合は後者)、当日それらの券を持参し参加するという手順になる。

 会場で実際に行われるのは、サインやハイタッチなど若干のバリエーションはあるが、握手をして、一言会話する程度がほとんどである。周りにスタッフがいるとはいえ、アイドルとファンあるいはファンを装う者が接する場である。

 筆者は、AKBのイベントではないが、これまでに数十人から数百人そして何千人程度の規模の女優、タレント、作家などのさまざまな握手会(一部は講演会やサイン会の延長で握手するものもあった)に参加してきた経験がある(注1)。

 その経験からすると、握手会で、スタッフや関係者が最も気にしているのは、握手の瞬間まで並んで待つ参加者に混乱が起きないようにすることであり、携帯やスマホなどでアイドルの写真や動画を取られないようにすることだ。

 荷物の中を見るなど簡単な手荷物検査を受けることもあるが、危険物や凶器がないかどうか調べるために所持品を厳しくチェックするようなことは、筆者自身の経験からもこれまで一度もなかった。ましてや、金属探知機などによるチェックを受けたことも全くなかった。

 握手会の主な目的は、アイドルとファンとの近しさや親密な機会を演出することであるので、そのように実施・運営されているのはある意味当然だと思う。会える時間はたとえほんの一瞬でも、あまりに厳しいセキュリティチェックや警戒感を醸し出しては、握手会の趣旨にも反するだろう。これまで握手会は、ファンが来るイベントで犯罪は起きないという性善説に基づいて、基本的に実施されてきたのだと思う(注2)。

 だが、今回のような事件が起きると、ファンにとっては残念だが、もっとセキュリティが厳しくなることだろう。

 他方、「握手会」は、ファンなどにとっては、アイドルに直接会え、短時間だが一言二言会話を交わせ、ファンであることを実感できる非常に貴重というか大切なイベントだと思う。今回の件であまりに規制が厳しくなり、イベントがつまらなくなったら、社会全体も息苦しくなる。それは、大げさにいえば、今の日本にとっても、マイナスだ。

 また、それは、多くのファンに会わねばならないアイドルにとっては大変なことではあろうが、自分のファンをより確実にし、また自分への支持や人気を確認あるいは実感できる重要な機会ではないか(特に、売り出し中のアイドルにとっては、AKB48同様に重要な機会だろう)。女優の北川景子さんが、自分の写真集の握手会の後に、「多くのファンにお会いして、ファンからパワーをいただきました」と言っていたのはまさに実感ではないかと思う。

 これは、選挙に出馬した候補者や議員にとって、有権者と握手することが一票をより確実に獲得できる機会になるという政治における法則(?)と同じだと考えることもできる。

 このように考えていくと、今回のような事件は起きはしたが、ファンもアイドルも「握手会」が今後一切行われないということを必ずしも望んではいないと推測できる。もし実施されなくなれば、両者共に「残念だ」という気持ちも生まれてくることだろう。

 一方、今回の握手会事件のゆえに、アイドルや関係者の間に、「握手会」などファンと接する機会への恐怖心や警戒感も確実に高まっているだろう。

 ではどうすればいいか?

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