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中国共産党が「対テロ戦争」に成功しても、ウイグル族の「聖戦」は続く

藤原秀人 フリージャーナリスト

 中国で少数民族のウイグル族によるテロが相次いでいる。中国共産党は5月28、29の両日、習近平党総書記も出席し、4年ぶりの「中央新疆工作座談会」を開き、「テロへの断固たる攻撃を当面の闘争の重点とする」と宣言、「対テロ戦争」に最優先で取り組む方針を打ち出した。

 新疆ウイグル自治区だけでなく、北京など主要都市は戒厳令下と思えるほど警備は厳重だ。

新疆中国と新疆ウイグル自治区
 北京青年報などによると、北京の地下鉄のいくつかの駅では、2008年北京五輪の時のように金属探知機が設けられている。

 当局は住民に不審な人物の情報提供を求め、検挙につながるよう懸賞金も用意した。靴磨きや新聞販売員も情報を提供するよう求められている。さらに多数のボランティアによる巡視が予定されている。

 治安担当の孟建柱党政治局員は5月30日に開いた対テロ会議で、警察などの機関は「暴力テロの厳しい取り締まりを当面の活動の重点とし、テロリストの気炎を断固打ち砕かなければならない」と述べ、情報活動の態勢・仕組みを刷新し、警戒能力を高めなければならないと訴えた。

 テロをあおる音声・映像の取り締まり、テロを扇動、指揮するルートの遮断、違法出国ルートの摘発、過激宗教思想の浸透阻止などの徹底も強調された。

 いかなる理由があるにしてもテロは絶対に許されない。だが、中国の「対テロ戦争」が完全勝利するとは思えない。

 習総書記は4月25日の党政治局会議で「テロ分子の増長を許すな」と号令をかけた直後の4月27日から30日の日程で、新疆ウイグル自治区を視察に訪れていた。習総書記が自治区を離れた直後の4月30日、区都ウルムチ市のウルムチ南駅前で爆発があり、死傷者が出た。当局はウイグル族の犯行と発表しているが、総書記訪問でこれ以上の厳戒態勢はないという状況でも、テロは起きたのだ。

爆発事件から一夜明け、現場付近で周囲を警戒する武装警察官たち=2014年5月23日、ウルムチ爆発事件から一夜明け、現場付近で周囲を警戒する武装警察官たち=2014年5月23日、ウルムチ
 中央アジアにはトルコ系のカザフ、キルギス、トルクメン、ウズベクの各民族が暮らす。中国のウイグル族もトルコ系だ。

 彼らの住む土地はトルキスタンと呼ばれていた。近代以降、西トルキスタンは帝政ロシアの支配下となり、ウイグルの東トルキスタンは清朝に征服され、中国語で新しい地という意味の「新疆」と呼ばれるようになった。

 以後、新疆のウイグル人は必ずしも望んだわけでもないのに、満州族や漢族という異民族の統治下にある。

 国民党時代の1933年と1944年に、東トルキスタン共和国の建国がはかられたが、国民党が共産党との内戦に敗れた後の1955年に新疆ウイグル自治区が設立された。

 異民族の清朝を倒すために辛亥革命を起こした国民党だけでなく、建国前には連邦制や幅広い民族自治を検討したことがあった共産党も、権力を握ってからは、統一した中央集権国家が中国にはふさわしい、などの理由を盾に自治を制限してきた。ウイグルでもチベットでも、トップの党委員会書記は漢族が務めてきた。

 新疆ウイグル自治区では、文化大革命時代にモスクが破壊されるなどの宗教弾圧があり、住民に知らせないで核実験が何度も行われた。漢族の大量の移住が続き、今やウイグル族は自治区の2200万の人口の半数を割り、漢族が4割を占める。人口には含まれない屯田兵的な軍事組織「新疆生産建設兵団」の260万人のうちの約9割が漢族だ。ウイグル族の自治区というのは骨抜きにされている。

 ウイグル族に対する差別も日々、深刻になっている。

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