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[1]韓流ブームは終わった?

伊東順子 フリーライター・翻訳業

新大久保の韓流百貨店、韓流雑誌の廃刊

 4月末の韓流百貨店倒産に続き、韓流ムックなどを手掛けていたTOKIMEKIパブリッシングの倒産も報じられ、日本のネット上などでは「いよいよ韓流ブームの終焉」という声もますます大きくなっている。

 韓流百貨店の倒産は韓国でも一応報道されたが、それが大きな話題になったという印象はない。倒産の時期がちょうどセウォル号事故に重なったこともあるが、そもそも一般の韓国人にしてみれば、日本で韓流ブームが盛り上がろうが下がろうが実生活にはあまり関係ない。

 もちろん2004年に「ヨン様ブーム」が起きた頃は、韓国俳優が外国でスターになるのは新鮮で、しかも中高年女性の熱狂など韓国ではありえない現象もあり、多くの関心を引いた。でも、その後に日本だけで妙に人気のスターなどが出てくると、「韓流スター」という言葉も微妙なニュアンスをともなうようになった。

 たとえば2010年の秋に放映され視聴率37.9%を記録した大ヒットドラマ「シークレット・ガーデン」には「韓流スター」という役柄が登場する。彼の風貌、気取った振る舞いは、韓国での「韓流スター」の立ち位置がよく表れていた。

本国から離れた日本の韓流ブーム

 さらに決定的だったのは欧米で大ヒットしたサイ(PSY)「江南スタイル」である。彼のエンターテイナーとしての評価は分かれるが、米国のビルボードチャート7週連続2位は快挙だった。2012年の夏以降、このムーブメントに韓国全体が完全にマヒした。どこに行っても「江南スタイル」が流れ、人々は踊りだす。

 韓国在住の外国人も大人から子供までがこの熱狂に包まれたし、世界各地の江南スタイルが連日テレビで映し出された。米韓首脳会談でもオバマ大統領が朴槿惠大統領に「娘たちが教えてくれた」と江南スタイルの話題をふっていた。

 日本では江南スタイルはそれほど流行らず、「どうして日本だけ?」とマスコミが話題にしたこともあったが、一般韓国人にとってそれは重要ではなかった。世界に認められれば、日本のことなど大した問題ではなくなる。この頃、日本でのスターはチャン・グンソクだったが、韓国では映画・ドラマともに興行的に失敗していた。日本の韓流ブームと本国の流行には明らかな「ズレ」があった。

韓流ブームの弊害

 とはいえ、韓国の芸能界関係者にとって、日本はとても重要な国である。

 「江南スタイル」は韓国の国家としてのイメージアップにつながっても、ドラマ制作を支援してくれるわけではない。一方、日本の「韓流ブーム」はお金になった。韓国ドラマにとってもkpopにとっても日本市場は大きく、ドラマなどはある時期、その多くが日本への放映権料を当て込んで作られていた。特に日韓で人気の大物スターなどを起用する場合は、日本の放映権料なしでは制作そのものができなくなっていた。

 韓国ドラマの制作費を高くしているのは俳優のギャラの高騰にあると、これまでも再三、韓国のマスコミによって指摘されてきた。そのギャラ高騰に貢献したのが、日本の韓流ブームである。ギャラだけではなく、韓国芸能界の習慣の多くは韓流ブーム以降に日本から持ち込まれた。

 私は韓流ブーム以前に韓国芸能人や映画監督の取材をしたことがあるが、1990年代後半はまだちゃんとした芸能プロダクションもなかった。取材の申し込みはマスコミ電話帳に載っている俳優の自宅に電話して、本人や両親と取材の約束をした。今のようなシステムはすべて「韓流ブーム以降」である。

 ところで、価格というものは、一度上がったら下がりにくい。日本の地上波で韓流ドラマ枠がなくなり、日本側は以前のような高い放送権料は払えなくなった。

 「でも、韓国側は相変わらず強気のことを言うのでびっくりです」

 日本のバイヤーはこぼしているが、韓国側も内心は困っていると思う。値下げは屈辱だが、売れなくてもまた困るのだ。

 「中国で韓流ブームだというし、それでいいんじゃないですか?」

 ドラマ制作者のジレンマは一般国民には共有されない。中国では今韓国ドラマが大人気で、ドラマに登場した韓国製化粧品なども中国人観光客に買い占められ、在庫切れになるほどだ。日々の報道に接する限り、日本での韓流ブーム終焉はそれほど打撃になっていない印象だ。

 なるほど、日本がなくてもその代わりを中国がしてくれればいい? さて、本当にそうなのだろうか?(つづく)