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創価学会が安倍政権に送ったシグナルとは?――集団的自衛権問題で粘り腰の公明党

佐藤優 作家、元外務省主任分析官

 第196通常国会会期中(参議院は6月21日、衆議院は同22日に終了)に、安倍政権は、憲法解釈の変更による集団的自衛権行使容認に踏み切る閣議決定を採択することができなかった。公明党が、粘り腰で、頑張ったからだ。

 公明党の平和主義は建前に過ぎず、「下駄の雪」のように自民党に飲み込まれるという見方をする政治部記者や評論家が多かったが、その見方は外れた。今回、公明党は本気で抵抗している。

集団的自衛権についての党内議論に臨む(左から)山口那津男代表、井上義久幹事長、石井啓一政調会長=25日午前、東京・永田町拡大集団的自衛権についての党内議論に臨む(左から)山口那津男代表、井上義久幹事長、石井啓一政調会長=2014年6月25日、東京・永田町
 もっとも公明党も連立離脱をするつもりはないから、いずれかの時点で自民党と妥協することになる。

 新聞報道から判断する限り、閣議決定の内容は「集団的自衛権」という名前がついても、実質的には個別的自衛権の解釈を若干拡大した程度の内容になる。政策論争の観点からすると、公明党が優勢だ。自民党がかなり公明党に歩み寄ることになるだろう。

 自民党と比較して、公明党は国際情勢の現実をよく理解している。自民党の印象論、心情論に対して、公明党は、事実と論理を重視している。

 例えば、6月20日、自民党が国連決議に基づく集団安全保障の際に自衛隊が武力行使をできるとの案を唐突に提出したことに対する公明党の猛反発だ。同日の「朝日新聞デジタル」の記事がよくまとまっているので引用しておく。

<自民、集団安保で武力行使を提案 公明は猛反発
 自民党は20日、集団的自衛権をめぐる公明党との協議で、国連の決議に基づいて侵略行為などをした国を制裁する集団安全保障の際、自衛隊が武力行使できるようにする案を公明党に示した。だが、公明党は自衛隊による海外での武力行使が際限なく広がるとして強く反発。大詰めを迎えた協議の最大の論点となっている。
 与党協議で自民側は、集団的自衛権を含む自衛権発動の前提として示した「3要件」に、集団安全保障での武力行使も認めるよう提案した。空爆など前線での戦闘行為は認めないが、海にまかれた機雷を爆発させて除去するなどの行為は許されるとの考えだ。
 安倍晋三首相は、集団的自衛権の必要性を説明する際、自衛隊の活動範囲を地理的に縛らないとの考え方から、中東ペルシャ湾のホルムズ海峡など海上交通路(シーレーン)での機雷除去を例に挙げてきた。ただ、集団的自衛権を使って機雷除去にあたる途中で、国連安全保障理事会の決議で事態が「集団安全保障」に変わると、憲法9条を踏まえて自衛隊は活動を中止しなくてはならない可能性があり、政府・自民は支障が出るとみている。また最初から国連決議で多国籍軍が結成された場合、機雷除去などにまったく参加できなくなるとの懸念もある。
 しかし、公明党はこうした方針が急浮上したことに猛反発している。与党協議で北側一雄副代表は「いままで(集団的)自衛権の要件を議論していた。いきなり集団安全保障と言われても、党内をまとめられない」と反論。引き続き調整することになった。
 一方、この日の与党協議では、政府から憲法解釈を変更して集団的自衛権を使えるようにするための閣議決定案の概要も示された。集団的自衛権を使うための要件に「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがあること」を挙げた。ただ、公明党は「党内の議論が終わっていない」として、具体的な協議は行わなかった。>

 集団的自衛権や集団安全保障をめぐる国会審議やマスメディアの報道を見て、筆者は強い違和感を覚えている。大多数の人たちが、現実に集団的自衛権を行使し、自衛隊の海外派兵が行われる可能性は、それほどないと認識しているからだ。

 論壇では、圧倒的な少数意見だが、筆者は、日本政府が集団的自衛権の行使に踏み切るか否かの判断を求められる状況が、近未来に生じうるのではないかと危惧している。

 それは、イラク情勢が急速に悪化しているからだ。これはシリア情勢とも密接に関係している。

 6月に入って、イラクでアルカイダ系過激派「イラクとシリアのイスラーム国(ISIS)」が攻勢を強めている。6月3日、シリアで大統領選挙が行われ、バッシャール・アサド大統領が再選された。

 もちろんこの選挙は、国際基準での自由で民主的な選挙ではなかった。従って、欧米諸国や日本は、この選挙結果を認めない。ただし、アサド政権が首都ダマスカスからシリア北西部を実効支配していることが可視化されたので、近未来にアサド政権が崩壊する可能性は低いという認識が関係者の間で共有されるようになった。

 そこでISISが、矛先をイラクに向けた。ISISがイラクの油田地帯を実効支配することになれば、それはアルカイダ系組織の重要な資金源になる。米国のオバマ政権は、そのような状況を看過しない。

 アルカイダ系のISISに対しては、国連常任理事国の米露英仏中のいずれも強い警戒感をもっているので、決議が採択され集団安全保障に基づき加盟国に軍事貢献が求められるかもしれいない。国連での合意が得られない場合でも、米国と西欧の死活的利益に関わるという観点から、米国が武力介入に踏み切り、同盟国に派兵を要求してくる可能性は十分にある。

 集団的自衛権、集団安全保障に関する議論では、「近未来に自衛隊がイラクに派遣される可能性がある」ということを念頭に置いた上で、議論を積み重ねる必要がある。公明党が、自民党が集団安全保障を唐突に持ち出してきたことに激しく反発したのは、イラク情勢の緊迫化を公明党が正確に認識しているからである。

 自民党は野党の声には耳を傾けない。そもそも民主党も集団的自衛権について、党としての立場をまとめ切れない状態だ。この状況で、安倍政権の、国際社会の現実から遊離した観念論に対抗する力を持っているのは、公明党だけだ。

 ここで重要なのは、公明党の支持母体である創価学会の意向だ。 ・・・ログインして読む
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筆者

佐藤優

佐藤優(さとう・まさる) 作家、元外務省主任分析官

1960年生まれ。作家。元外務省主任分析官。同志社大学神学研究科修士課程修了。外務省では対ロシア外交などを担当。著書に『宗教改革の物語――近代、民族、国家の起源』(KADOKAWA)、『創価学会と平和主義』(朝日新書)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『佐藤優の10分で読む未来』(新帝国主義編、戦争の予兆編、講談社)など多数。

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