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中国 孤独な知識人に連帯を

阿古智子(あこ・ともこ)/東京大学大学院准教授(中国現代社会研究)

 中国の人権派弁護士の浦志強氏、元社会科学院研究員で民主社会の実現を訴えた徐友漁氏ら改革派知識人が、天安門事件を振り返る内輪の集会に参加した後、当局に拘束された。2人はたびたび来日し、北海道大学や東大で報告したこともある。学術研究や交流をともに進めてきた仲間の拘束に黙っていられず、私や北大の鈴木賢教授(中国法)らが呼びかけ「身体、生命が危険にさらされないよう、隣人として祈念する」との書簡を5月13日に公表した。日本をはじめ、韓国や台湾の研究者、弁護士ら160人以上が賛同した。

AJWフォーラム英語版論文

 書簡は中国当局に宛てた抗議や要望ではない。2人のような「良識ある人々が中国社会のさらなる発展と東アジア地域の平和・共存のため、引き続き大いなる貢献を行いうること」を求め、「この真摯(しんし)な願いと祈りを、中国の良識ある人々と共有することを切に望む」との内容だ。「良識ある人々」とは、体制側も排除しない。

 国境を超えた人と人との連携は、政府間の交流以上に重要だ。日中間で歴史認識が衝突し和解が進まないのは、国民レベルで歴史の記憶を共に紡いでこなかったからだ。中国では共産党の視点から歴史が描かれ、日本との国交回復も国民の意見をほとんど聞くことがなかった。日本の学校では、アジアに対する戦争の加害者としての側面を学ぶことが少ない。

 最近、中国の民間人が日本に戦後賠償を求めるようになった。社会の発展に伴う意識の変化やインターネットの発達で、埋没させられていた人々が声を上げるようになったことが背景にある。ビジネスの世界でも、中国では労働争議や、環境汚染に対する抗議が頻発している。今や、法律を守っている企業にさえ人々は満足しない。政府は腐敗し信用を失う一方、人々は質の高い生活を求める。企業は政府や共産党の有力者との関係づくりに精を出すより、従業員や住民とのコミュニケーションに力を入れることを迫られる。

 貧富の差は驚異的だ。以前、浦氏は「制度を変えようとする自分のやり方を、国民がなかなか受け入れない」ともらしていた。ほとんどの人々は、権力が容易に乱用される体制に問題があることを分かっている。しかし、権力を持つ者と持たない者、金持ちと貧しい者との間で価値観の共有は難しく、自分の利益を守ることに必死なのだ。

 浦氏ら改革派知識人は孤独の中で闘っている。経済も環境も人権も国境を超えてつながるなか、中国の問題を自らの問題ととらえ、共に行動したい。

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阿古智子(あこ・ともこ)

東大大学院総合文化研究科准教授。1971年生まれ。大阪外国語大学外国語学部中国語学科卒、名古屋大学大学院国際開発研究科修士課程修了、香港大学教育学系で博士号を取得。早稲田大学国際教養学部准教授などをへて現職。著書に「貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告」(新潮社)など。