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イラク情勢とトルコの大統領選挙(下)――クルド独立という賭け

高橋和夫 放送大学教養学部教授(国際政治)

 イラクの他の地域が混乱するなかで、クルド人地域は治安の安定を維持した。その結果、イラク全体から資本と人材が流入した。また中東各地から企業が進出した。クルド地域は続々とビルが立ち上がる建設ラッシュを経験している。議会、官庁、ショッピング・モール、ホテル、空港などが建設されている。

 この建設ブームで一番潤っているのがトルコ企業である。労働者への需要が増大し、貧しかったトルコ東部が、その恩恵を受けている。両者間の経済的な交流が深まれば深まるほど、たとえばトルコとイラクのクルド自治区を結ぶトラックの運転手などが、必要になっている。これがトルコ東部のクルド人の地域に雇用をもたらした。

クルド人が多く住む地域拡大クルド人が多く住む地域
 クルド人の独立は、他の国々のクルド人の独立運動に火をつける。そのため、トルコはイラクのクルド人の高度な自治や独立に反対である、というのが一般的な認識であった。少なくとも、これまでは。

 イラクのクルド地域の自治に、どうトルコは対応すべきなのか。

 という議論が広がり深まる前に、トルコ企業とトルコ東部の人々は、イラクのクルド地域の繁栄から大きな利益を得てしまった。

 そしてイラク北部の独立傾向と繁栄はトルコにとっても悪くないという事実が証明されてしまった。

 イラクのクルド地域の独立傾向は、トルコにとって経済的な利益をもたらしているばかりではない。そこでは民主主義が実施されており、治安も安定している。クルド人は比較的に世俗的な人々であるので、過激なイスラム勢力がトルコに浸透するのを防ぐ緩衝地帯にもなっている。

 しかも現在のクルド地域の安定と繁栄がトルコの好意と協力に依存しているのを、クルドの指導部はよく理解している。したがってトルコのクルド人を扇動したりはしない。そればかりか、エルドアン政権とPKK(クルディスターン労働者党)の交渉でも貴重な仲介役さえ務めている。

 このイラク北部のクルド人地域が、さらに独立への動きを強める契機となったのが、この6月のISIS(イラクとシリアのイスラム国)の攻勢だった。 ・・・ログインして読む
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筆者

高橋和夫

高橋和夫(たかはし・かずお) 放送大学教養学部教授(国際政治)

北九州市出身、放送大学教養学部教授(中東研究、国際政治)。1974年、大阪外国語大学ペルシャ語科卒。1976年、米コロンビア大学大学院国際関係論修士課程修了。クウェート大学客員研究員などを経て現職。著書に『アラブとイスラエル』(講談社)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会)、『アメリカとパレスチナ問題』(角川書店)など多数。ツイッター https://twitter.com/kazuotakahashi ブログhttp://ameblo.jp/t-kazuo 

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