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旅客船セウォル号沈没事故、その後――深まる謎、広がる国家不信

伊東順子 フリーライター・翻訳業

「ミステリー? コメディでしょう」

 「もうどこから怒っていいのかもわからない。ミステリー? コメディでしょう」。死者294名、行方不明者10名の大惨事となった韓国旅客船セウォル号沈没事故から100日たった7月24日、追悼の場では参加者がテレビニュースのインタビューに力なく笑っていた。

 前々日、韓国の捜査当局は、6月12日に全羅南道順天市の梅林で発見された変死体がセウォル号の船舶会社の実質的なオーナー、ユ・ビョンオン氏と発表、またしても韓国社会は衝撃に包まれていた。

兪炳彦(ユ・ビョンオン)氏が指名手配された後の5月下旬、ソウル駅に設置されたテレビに映しだされた手配ポスター拡大兪炳彦(ユ・ビョンオン)氏が指名手配された後の5月下旬、ソウル駅に設置されたテレビに映しだされた手配ポスタ=AP
 遺体発見現場はユ氏が潜伏していた別荘からわずか2キロ余り。現場からはユ氏に関連付けられる所持品も複数発見されていた。

 にもかかわらず、遺体は当初「ホームレス」として処理され、それが40日後になって突然、ユ氏のDNAと一致したと発表されたのだ。

 「DNA鑑定になんで40日もかかるのか」「10本もあった金歯を見落としたのか」「高級ブランド品を着ていたのにホームレスって……」「ユ氏が愛用していた杖やメガネはどこにいったのだ」

 主要メディアは一斉に捜査当局の不手際を批判した。それは誰が聞いても首をかしげるような、まさに「捜査のイロハも知らない」ようなずさんなものだった。さらに死因も特定されていなかった。

 「いったい自殺なのか、他殺なのか、病死なのか」

 さまざまな憶測が飛び交う中、7月25日に発表された国立科学捜査研究院の検死結果は「腐乱が進みすぎており、死因は特定できず」。これはもはや「大方の予想通り」、人々は怒りを通り越して笑うしかなかった。

 「あたかも華城連続殺人事件を素材にした映画『殺人の追憶』で現場の証拠保全もせずどたばたする警察を見るようだ。当時に比べ国科捜の科学捜査技法ははるかに発展したが、現場警察官の捜査能力は全く改善されていないということだ」(7月26日付『中央日報』社説)

映画『殺人の追憶』の追憶

 映画『殺人の追憶』というのは、2003年に公開され大ヒットした韓国映画だ。監督ポン・ジュノ、主演ソン・ガンホという、今は韓国映画界のツートップともいえる二人の出世作、1980年代に韓国の地方都市で実際に起こった連続殺人事件をモチーフにしている。今回の件で、このサスペンス映画を

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筆者

伊東順子

伊東順子(いとう・じゅんこ) フリーライター・翻訳業

愛知県豊橋市生まれ。1990年に渡韓。著書に『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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