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ウクライナ紛争と航空機撃墜(下)――愛国心キャンペーンのつけ

大野正美 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

 逆に、ウクライナ側の反応は迅速だった。

 国営通信社に加え、各種のソーシャルメディアもストレルコフ幹部の書き込みなど、マレーシア機撃墜にかかわる親ロシア派の情報を刻一刻と速報し、「高高度を飛ぶ旅客機を撃墜する兵器を持たない」とする親ロシア派の声明やロシア・メディアの報道にも詳細な反論を行った。

 ロシア側にとりわけ痛かったのは、親ロシア派やロシア・メディアが6月末に、ブーク・ミサイルを保有したという情報を盛んに流していたことだ。

クライナ空軍のアントノフ26輸送機を撃墜したのは、「ドネツク人民共和国」の特殊部隊が奪取したこの「ブーク」ミサイルとあるツイッターの書き込み。ウクライナ国防省は、アントノフ26が7月14日に東部ルガンスク州上空の高度6500メートルを飛行中に撃墜されたとしていた拡大ウクライナ空軍のアントノフ26輸送機を撃墜したのは、「ドネツク人民共和国」の特殊部隊が奪取したこの「ブーク」ミサイルとあるツイッターの書き込み。ウクライナ国防省は、アントノフ26が7月14日に東部ルガンスク州上空の高度6500メートルを飛行中に撃墜されたとしていた
 リア・ノーボスチ通信に至っては、撃墜が起きる40分足らず前の17日午後4時38分に、「最近のウクライナのスホイ25攻撃機の墜落についてウクライナ側はロシア軍機がミサイルで撃墜したと主張しているが、その全体主義的、ファシスト的性格を表すプロパガンダだ。ドネツク、ルガンスク両『人民共和国』の義勇軍は、ウクライナ軍との戦闘で多くの地対空ミサイル、及び数基のブーク・ミサイルを奪取した。スホイ25の撃墜はこれら義勇軍の防空武器による戦果である」とするロシア国防相関係者の談話を報じていたほどだ。

 ウクライナ当局が、旅客機撃墜で動揺する親ロシアの兵士とロシアの情報機関幹部とのやりとりとする交信記録をただちに発表したことなどと合わせ、その迅速な対応が国際社会に「親ロシア派犯行説」の心証を効果的に強めさせたことは疑いない。

 ロシアの政治評論家スタニスラフ・ベルコフスキー氏は、「親ロシア派武装勢力が誤ってマレーシア機を撃墜したことを示す証拠は多いが、最も重要なのは(同勢力の)ストレルコフ幹部が墜落の公表される30分前に自分の目で見て『飛行機を撃墜した』といっていることだ」としている。

 今回の撃墜事件でウクライナは、押され続けてきたロシアとのメディア戦争で一矢を報いた形である。とはいえ、このことは親ロシア派武装勢力とロシア・メディアの敵失によるところが実際には大きい。

 今年5月にウクライナ東部で政府軍と親ロシア派との武力衝突が激しくなってきてから、ロシア・メディアは、親ロシアによるウクライナ軍機撃墜などの戦果情報を垂れ流しで報じ続けることで、ドネツク、ルガンスク両「人民共和国」による実効支配の浸透をロシアの内外に印象づけるキャンペーンに力を入れ続けてきた。

 今回の撃墜事件でも、いつも通りに親ロシア派勢力のもたらした戦果の情報を検証もせずに垂れ流して報じたところ、思いもかけない展開から深い傷を負ってしまったということだろう。

 にもかかわらず、ウクライナ紛争をめぐるロシア・メディアの報道のあり方をプーチン氏は修正できず、 ・・・続きを読む
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筆者

大野正美

大野正美(おおの・まさみ) 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

1980年、朝日新聞社入社。水戸支局、外報部、東京社会部などを経て、1986年からサンクトペテルブルクに留学、モスクワ支局勤務は3回計11年。論説委員、編集委員、国際報道部・機動特派員を経て、現在は報道局夕刊企画班。著書に『メドベージェフ――ロシア第三代大統領の実像』『グルジア戦争とは何だったか』(いずれもユーラシア・ブックレット、東洋書店)など。

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