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憲法解釈が変更されるという政治的牽制

 閣議決定が解釈改憲であり、立憲主義への侵犯であるという法的批判(安倍内閣違憲状態政権説など)が正しければ、単に平和主義だけではなく、憲法の他の諸原理も危機に晒されているということになる。

 一内閣が憲法を実質的に変えてしまうことが可能なら、「【閣議決定後の日本政治をどう捉えるべきか?(4)】――徴兵制導入の必要論と可能論」で指摘したように、現行憲法においても徴兵制が導入可能になるだけではなく、自由をはじめとする人権や政教分離などの政治的大原則も一内閣の判断で変えることができるからである。

飯島勲・内閣官房参与拡大飯島勲・内閣官房参与
 実際、この閣議決定において、公明党が途中から妥協したのは、政権側が政教分離について公定解釈を変更する可能性を示唆して公明党を脅したからではないか、という見方がある。

 6月10日に飯島勲内閣官房参与がワシントンの講演で、公明党と創価学会の関係は憲法の政教分離原則に反しないとしてきた従来の政府見解が変更され、内閣法制局の発言・答弁が変わって「政教一致」とされる可能性に言及した。

 飯島氏は、「もし内閣が法制局の答弁を一気に変えた場合、『政教一致』が出てきてもおかしくない」と述べ、「公明党と創価学会の関係は長い間、『政教一致』と騒がれてきた。内閣法制局の発言の積み重ねで『政教分離』になっている」と強調して、政府がこうした見解を見直した場合、「弊害が出てきて(公明党が)おたおたする可能性も見える」と語ったという。

 この発言の意図は公共的に明確にされずに今に至っているが、公明党に集団的自衛権行使を容認させるための政治的牽制であるという見方が多い。

 過去にこの「政教一致」問題は何回か浮上し、1995年に池田大作氏の証人喚問要求がなされ、当時の創価学会会長(秋谷栄之助)が参考人招致されたことがあるので、この飯島発言は公明党に対する脅しである、という観測がなされたのである。

解釈改憲による政治的脅迫説

 この問題について、政治評論家の森田実氏は、「飯島氏の発言は、『安倍内閣はどんなことでもできる。安倍内閣に反対する者は、憲法解釈を変更して憲法違反者として取り締まりの対象にする。そうされたくなければ、安倍首相に従順になれ』と脅迫しているのと同じです」と批判した。そして、安倍首相やその側近の傲慢ぶりは目に余るとして、飯島氏を国会に招致したり証人喚問したりして議論すべきであり、飯島氏の責任と安倍首相の任命責任が問われるべきだ、と主張した。

 つまり、飯島発言は憲法解釈の変更を示唆することによる「政治的脅迫」であるというのである。

 実際には、政教分離とは、特定宗教と国家や政権との公的結合を禁止することだから、そうでない限り、創価学会であれ、他の宗教団体であれ、個々の信仰者や宗教団体が政治的に発言することや行動することは自由である。だから、現在の公明党の主張を前提にして考えれば、創価学会と公明党の関係は、憲法の政教分離規定には抵触しない。

 だから、閣議決定でこれを政教一致と解釈するような憲法解釈に変更するということは、解釈改憲に他ならない。そこで以下では、解釈改憲を行うという政治的脅迫が行われたという見方を「解釈改憲脅迫説」と呼ぼう。 ・・・ログインして読む
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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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