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公共放送か、公放送か?

 安倍政権は、NHKの会長、経営委員(作家・百田尚樹氏、埼玉大学名誉教授・長谷川三千子氏)や原子力規制委員会委員長などに次々と自分たちのお気に入りの人物を要職につけているとして批判を受けている。特にNHKの籾井勝人会長は、会長就任の記者会見で「政府が『右』と言っているものを、われわれが『左』と言うわけにはいかない」と述べて、批判を浴びた。

NHKの籾井勝人会長拡大NHKの籾井勝人会長
 従来、NHKは公共放送と言われており、国営放送ではなかった。公共と公とを使い分ければ、「公」が国家や政府などの「お上」を意味するのに対し、「公共」とは日本というコミュニティに関わる人びと、「民」に関することを意味する。

 だからこそ、NHKは税金で運用されているのではなく、人びとがNHKに受信料を払っているのである。この場合、「公共放送」は、政権から独立して自らの見識で公共的な放送を行うのだから、当然、政権に批判的な内容を放送することが可能である。

 ハーバード白熱教室もNHKで放送されたように、筆者はNHKがしばしば良心的な、まさに「公共的」番組を作成してきたことを知っている。また、NHKの要請で、NHKの公共放送としてのあり方をめぐって白熱教室や討論を行ったこともある。だから、少なくともNHK内部に、まさに「公共放送」としての性格を深く認識した上で発展させようとしている人びとがいることを個人的にも知っている。

 ところが、籾井発言のような発想になると、NHKは政権の意向に反する放送は行えないということになる。これは「国営放送」の発想であり、まさにNHKが「公共放送」ではなく「公放送」となることを意味する。

 だから、籾井会長更迭を求めるNHK受信料支払い凍結運動が起きたり、NHK名古屋放送局の退職者21人で作る会から、NHK経営委員全員に籾井氏の適格性についての公開質問状が送られたり(6月6日)、さらにはキャスター・アナウンサー・プロデューサーなどを務めた退職者172人から経営委員会に籾井会長の辞任勧告か罷免を求める声明が出されている(7月18日)のである。

政治的圧力による公共的言論空間の萎縮

 さらに集団的自衛権問題では、NHKの放送そのものについて問題が生じた。

 7月3日に生放送されたNHKの「クローズアップ現代」に、菅義偉官房長官が出演し、集団的自衛権行使容認の閣議決定について国谷裕子キャスターが、「他国の戦争に巻き込まれるのではないか」、「憲法の解釈を変えていいのか」と質問した。すると、番組終了後に、「誰が中心になってこんな番組をつくったのか」などと安倍官邸が恫喝し、犯人さがしをして、籾井会長以下、上層部は平身低頭し、国谷キャスターは「すみません」と泣き出した、というのである(『フライデー』7月25日号)。

 もしこれが本当ならば、内閣がNHKを自分の意向に従わせようとしていることになるから、まさしくNHKからは報道の自由が失われ、公共放送ではなく、公放送、つまり国営放送になってしまいかねないわけである。NHKの会長人事やこのような「事件」は、いずれも政権による政治的圧力の兆候と言えるだろう。

 すでに、テレビなどでは政権に批判的な論客は出演する回数が減っている ・・・ログインして読む
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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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