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アメリカのイラク北部爆撃とクルドの独立願望

高橋和夫 放送大学教養学部教授(国際政治)

 8月に入ってアメリカ軍がイラク北部への空爆を開始した。作戦は現在も続行されている。

 目標は、イラク北部のIS(イスラム国)の部隊である。ISは、ISIS(イラクとシリアのイスラム国)として知られていた組織である。6月にイラク北部の大都市モスルを制圧するなど急激にシリアとイラクで支配地域を拡大させた。7月には、その指導者のアブ―バクル・バグダーディをカリフ(イスラムの預言者ムハンマドの後継者)に指名してイスラム国の樹立を宣言した。

イラク拡大イラクのアメリカの爆撃地点(2014年8月17日時点)
 モスルなどが簡単に陥落したのは、ひとつにはイラク軍の指揮が乱れており、兵に戦う意志がなかったからだ。イラクのマリキ前首相は、2011年にアメリカ軍がイラクから撤退した後に軍幹部の人事を入れ替え、能力よりも自らに対する忠誠心を重視した任用を行った。

 その結果、イラク政府軍の上層部にはシーア派でマリキ首相には忠実だが指揮官としての能力には疑問符のつく人物たちが座ることとなった。現場の兵士たちは、こうした指揮官の下で命を懸けて戦おうとはせず、スンニー派イスラム急進派の攻撃を受けて潰走した。

 しかし、その兵士たちよりも早く逃げ出した指揮官もいた。結果としてイラク軍の保有していた大砲や戦車などの大量の大型兵器が無傷でイスラム国の手に落ちた。アメリカ製の兵器である。こうした新型兵器を入手したイスラム国の部隊は突然に格段に強力になった。

 8月にイスラム国が北部のクルド地域に対して攻勢を開始すると、クルド人の部隊は前線を支えきれずに後退した。

 イスラム国の部隊とクルド人の部隊の差異は、勇敢さではない。

 山岳民族であるクルド人は古来から武勇で知られている。クルド人の兵士は現地では「ペシュメルガ」と呼ばれる。クルド語で「死に向かう者」を意味する。それほどクルド人は勇猛である。ただクルド人は

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筆者

高橋和夫

高橋和夫(たかはし・かずお) 放送大学教養学部教授(国際政治)

北九州市出身、放送大学教養学部教授(中東研究、国際政治)。1974年、大阪外国語大学ペルシャ語科卒。1976年、米コロンビア大学大学院国際関係論修士課程修了。クウェート大学客員研究員などを経て現職。著書に『アラブとイスラエル』(講談社)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会)、『アメリカとパレスチナ問題』(角川書店)など多数。ツイッター https://twitter.com/kazuotakahashi ブログhttp://ameblo.jp/t-kazuo 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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