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パクス・アメリカーナの墓場、イラク空爆という対症療法

春名幹男 早稲田大学客員教授(米政治安保、インテリジェンス)

 米軍のトップ、マーティン・デンプシー統合参謀本部議長が8月6日、強引に「直訴」しなかったら、オバマ大統領はイラクでの空爆を決断していなかっただろう。

 国務省からホワイトハウスまで、車中でのわずか5分間。デンプシー議長はイラクの過激派「イスラム国(IS)」がクルド人勢力を襲って、クルド人自治区の首都アルビルに迫り、大量殺戮の可能性に加え、米領事館に危険が及ぶ恐れがある、と強調したという。

ホワイトハウスの前で米国の早期介入を求める少数宗派ヤジディの信者たち。この8時間後、オバマ大統領が限定空爆を発表=2014年8月7日、ワシントン拡大ホワイトハウスの前で米国の早期介入を求める少数宗派ヤジディの信者たち。この8時間後、オバマ大統領が限定空爆を発表=2014年8月7日、ワシントン
 オバマ大統領が恐れるのは2012年9月、リビア・ベンガジの米領事館が襲われ大使ら米国人4人が殺害されたのと同様の事件の再発だ。当時、オバマ政権は共和党から厳しい批判を浴びた。「ベンガジの悪夢」がオバマ大統領の脳裏にこびりついていたようだ。

 大統領は国家安全保障会議(NSC)での議論を経てISに対する「限定的な空爆」を発表した。7日夜の演説では「イラクで再び戦争に引きずり込まれることを認めない」と目標を定めた作戦であることを強調した。

長期戦略を欠くオバマ政権

 しかし、限定的空爆に加えてイラク首相を強権的なマリキ氏からアバディ氏に交代させても、イラク情勢は好転しない。当面の危険を回避する対症療法でしかないからだ。

 このままでは、中東全体が戦火に巻き込まれ、米本土が再びテロに襲われる恐れもある。米議会調査局(CRS)の最新の報告書「イラク危機と米政策」はイラクが「地域および米本土に対するテロ攻撃の基地となる可能性」を警告している。

 だが、こうした危機を回避する戦略はオバマ政権には期待できまい。このままでは、イラクは米国が主導してきた世界秩序「パクス・アメリカーナ」の墓場になるかもしれない。米国が、世界をリードする長期的な外交戦略を欠いているからだ。

ベトナム戦後外交と際立つ違い

 ニクソン政権のベトナム撤退と、38年後のオバマ政権のイラク撤退を比較することによって、オバマ政権の無策ぶりを如実に示すことができる。

 ベトナム、イラクの両方のケースとも、長期戦に伴う米経済の疲弊、さらに厭戦気分のまん延といった状況は共通している。また、米軍撤退後をにらんで、ベトナムでは「ベトナム化」を標榜して南ベトナム軍を強化し、イラクでもイラク治安部隊を養成して、その上で米軍が撤退した経緯は同じだ。

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筆者

春名幹男

春名幹男(はるな・みきお) 早稲田大学客員教授(米政治安保、インテリジェンス)

1946年京都市生まれ。大阪外国語大学卒。共同通信社ニューヨーク支局、ワシントン支局、ワシントン支局長。名古屋大学大学院国際言語文化研究科教授をへて、現在、早稲田大学客員教授。ボーン・上田記念国際記者賞・日本記者クラブ賞受賞。著書に『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『秘密のファイル―CIAの対日工作』(共同通信社)など。

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