2014年08月28日
記者への出頭命令、さらに出国禁止措置まで? 産経新聞ソウル支局長のコラムに対する韓国当局の対応は、「外国のメディアに対しては異例のこと」として内外で注目を集めた。
発端は8月3日付の産経新聞インターネット版に掲載された「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」という、加藤達也支局長の署名記事である。
韓国の新聞などを引用しつつも、かなりプライベートな面にも踏み込んだ内容が「名誉棄損にあたる」と、「自由守護青年団」「独島愛好会」などの保守系市民団体から告発された。
青瓦台のユン・ドゥヒョン広報首席秘書官は7日、「民事・刑事上の責任を最後まで追及する」と強調。告発したのは市民団体だが、大統領府もこの告発を支持することを明らかにした。
その後、ソウル中央地検は18日と20日の2度にわたり、加藤支局長を事情聴取。検察関係者はさらに取り調べを進めた上、「刑事処罰も検討」しているという。
報道の内容を知った韓国の人々の多くは、まさに怒り心頭といった様子だった。
日頃は大統領に批判的な人々までも、産経の記事は「低俗」「国家元首に対する侮辱」「芸能ゴシップ誌以下」等々、不快感を露わにした。確かに韓国の「権威ある日刊紙」はこのような記事をあまり掲載しないし、独身の女性大統領に対する記事としてはかなりスレスレ感もあった。
私自身も正直、不快だった。それでなくても日頃から朴大統領への批判は、日本でも韓国でも「家で孫でも見てればよかったのに」や「親日派の娘だから」といった、性別や出自をもとにした「差別的」なものが多いのだ。
大手メディアはもちろん、ネット上でも産経の記事には批判ばかりが目立った。
その一方で、これが果たして大統領府が乗り出して「刑事処罰」を云々する内容かについては、韓国国内でも意見が割れた。保守的な大手メディアが政府方針に同調する一方で、反政府系の新聞やネット空間では、これは「行き過ぎ」であり「言論の自由に反するもの」、さらに「不公平だ」という意見も出された。
「産経新聞が問題なら、引用元の朝鮮日報は?」
大統領府の声明から3日後の8月10日付ハンギョレ新聞は、日本国内の複数のメディアの声を引用するという形で、自国政府の方針を事実上批判した。
実際、当該の産経記事は、そのほとんどが韓国国内報道の引用だった。特に問題となった部分の多くは、朝鮮日報のコラムによるもの。なのにそちらは口頭注意だけで、産経だけが刑事上の罪を取り沙汰されるというのは、かなりアンフェアな印象を与えた。
ソウル外国人記者クラブが緊急の集まりを開くなど、他の外国メディアの関心も高まる中、英国『エコノミスト誌』が8月21日にネット配信した記事も、やはりこの部分について言及している。
After all in his article Mr Kato’s was careful to quote only South Korean sources, including the conservative Chosun Ilbo newspaper and on-the-record comments that were made by Ms Park’s chief secretary during proceedings of the national assembly.
(加藤支局長は注意深く、保守系の『朝鮮日報』と大統領首席秘書官の国会聴聞会での公開発言など、韓国内のソースだけを自身の記事に引用した。)
日韓以外のメディアの配信は、一部の韓国人にとって衝撃だったようだ。「ついに国の恥が世界に広まった」という嘆きがネット上などには見られた(「国の恥」の内容には「大統領の醜聞」と「言論の自由の制限」の両方が入り交じっていた)。
それはともかく、なぜ産経だけが告発されたのか。
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