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独裁的民主主義

 それでは、準極右的体制変革の暁には、民主主義はどうなるだろうか? 

丸山眞男氏=1959年拡大丸山眞男氏=1959年
 丸山眞男は、民主主義には、「制度としての民主主義」だけではなく、「理念としての民主主義、運動としての民主主義」という側面があることを指摘した。つまり、「制度としての民主主義」があっても、残りの2つの民主主義が消えては、本当の民主主義とは言えないのである。

 「【閣議決定後の日本政治をどう捉えるべきか?(7)】――NHK問題にみる政権独裁化説」で論じたような、安倍政権独裁化説が正しければ、民主主義に危険が迫っているということになる。

 とはいえ、現在はまだ選挙を行うのだから、形式的には「制度としての民主主義」が廃止されて独裁的政治体制に移行しているというわけではない。

 もし独裁と民主主義という双方の要素があるとすれば、その政治体制はどのように呼ばれるべきだろうか? 「準(半)極右」にならって「準(半)独裁」とか、「準(半)民主主義」と言うこともできるだろうが、近年の比較政治学では、民主制と非民主制とのグレーゾーンにある中間的な体制を「混合体制」と呼ぶことがある。

 準極右的体制変革の後でもまだ民主主義が制度としては残るとすれば、このような中間的体制を「独裁的民主主義(体制)」と呼ぶことができるだろう。逆に、安倍政権を「民主主義的独裁(政権)」ということは可能でも、「民主主義的独裁体制」というのは難しいだろう。

競争的権威主義

 しかし、秘密保護法などで言論などの市民的自由が制限されるという点に注目すれば、準極右的体制変革後の政治体制について、「【閣議決定後の日本政治をどう捉えるべきか?(1)】――『上からの体制変革』の決定的開始」でふれた権威主義概念を用いることは不可能ではないかもしれない。「独裁的民主主義」と同じように、「権威主義的民主主義」と呼ぶこともできよう。

 「権威主義的体制」の概念は、自由が完全にない全体主義と民主主義との中間にある政治体制を意味しており、その場合は限定的に自由や多元主義が存在する。その典型的な事例は、スペインのフランコ体制のような非民主主義的体制である。戦前の「日本ファシズム」も、この政治体制論においては、権威主義体制に分類されることがある。

 準極右的体制変革後にも選挙は行われるとすると、今の日本は典型的な権威主義にはならないかもしれない。しかし、権威主義の中には多様な類型が含まれており、その下位類型の研究が進んでいる。

 形式的な選挙は行っていて不完全な政治的競争はあっても、実際には自由が制限されていて民主体制の最低基準を満たせないような体制を「競争的権威主義」とか「選挙的権威主義」とか呼ぶことがある。

 だから、形式的な選挙が制度的に行われて「民主主義」を自称していても、事実上は一党が覇権を握っていて政権交代がなく、その前提となる自由や人権が侵されていたり選挙制度に不公正があったりすれば、その政治体制は「権威主義」の一類型になる。このような概念を用いれば、準極右的体制変革後には日本が「競争的権威主義」になるという可能性はあるかもしれない。

 戦後の55年体制では、自民党中心の一党優位政党制が長年続き、日本において本当の民主主義が実現しているのかどうかが議論されてきた。選挙制度中心の「政治改革」は、政権交代の存在する本当の民主主義を実現しようという目的を掲げて行われた。しかし、一度政権交代は実現したものの、筆者が危惧してきたように、その後に再び民主主義の危機が生まれている。

 たとえば、自由については、秘密保護法によって制約の可能性が高まっている上に、 ・・・ログインして読む
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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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