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国会周辺でデモをする自由(下)――静穏保持法と自民党政権の変質

五野井郁夫 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

 「この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意するとともに、法令の規定に従って行われる請願のための集団行進については何らの影響を及ぼすものではないものといたしております(静穏保持法の趣旨説明をする三塚博衆議院運営委員長、1988年12月2日の衆院本会議にて)

 自民党が8月28日に、ヘイトスピーチ対策のプロジェクトチーム初会合を行った際、警察庁の担当者が国会周辺での拡声機の使用を規制する静穏保持法に基づく摘発は、年間1件程度との現状を説明した。この点については多くの新聞でも「拡声器を使った国会周辺での街宣活動は現在も静穏保持法で禁じられている」と報じられている。

 では年間1件程度の摘発では、誰がその対象となったのだろうか。

原発再稼働に反対し、国会前に集まった人たち=30日午後、東京・永田町拡大原発再稼働に反対し、国会前に集まった人たち=2014年8月30日、東京・永田町
 8月30日に川内原発の再稼働反対を訴えた国会前抗議が行われたさい、「官邸前見守り弁護団」の小島延夫弁護士の姿があったので、尋ねてみた。

 「見守り弁護団」は、憲法が定める国民の権利擁護のために、宇都宮健児元日弁連会長をはじめ日本弁護士連合会の有志ら数十名が組織している弁護団で、国会前や官邸前の抗議でのトラブルの未然防止や警察の過剰警備を牽制すべく、法の専門家の立場から毎週抗議行動に中立的な立場で立ち会っている。

 同弁護団の小島弁護士によれば、一連の脱原発や秘密保護法、集団的自衛権にかんする抗議参加者で静穏保持法に基づいて摘発を受けた事案は、見守り弁護団発足後は確認できていないという。

 また一部自民党議員の発言では、他国の来賓があった際になぜ日本では官邸前や国会前であのような大規模な抗議行動ができるのかと質問を受けたとの話もあった。

学生たちに占拠された台湾立法院。建物の周囲にも多くの人が集まり、座り込みを続けていた=2014330台北市拡大学生たちに占拠された台湾の立法院=2014年3月30日、台北市
 この件について小島弁護士からは、台湾の立法院の前はそもそも大広場で人が集まっていたし、そもそも主催者発表50万人、警察側発表11万6千人ほどの台湾の立法院占拠なども立法府前の抗議行動としては充分に大規模だろう、という返答がかえってきた。

 たしかに、スペインのマドリードやポルトガルのリスボンなどOECD諸国で連続的に起きている抗議運動なども日本と同様に、広場の占拠と立法府への抗議行動を数十万人規模で行っている。

 暴力的な手段に訴えず市民社会の側が自己抑制して行うという日本の抗議行動の美風はしだいに海外でも普及しつつあるし、立法府等への大規模な抗議行動は別に日本だけが珍しいわけでもない。

 ところで、実際に静穏保持法を成立させた1988年当時、政権党であった自民党は同法でいったい何を規制しようとしていたのだろうか。

 以下、当時の本会議の議事録を振り返ることで、同法が想定していた規制対象の像をつまびらかにしてみたい。

三塚博氏=1989年拡大三塚博氏=1989年
 衆院本会議の1988年(昭和63年)12月2日の議事録(衆 - 本会議 - 21号 昭和63年12月02日)では、三塚博衆議院運営委員長(当時)が、提案の趣旨について、「この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意するとともに、法令の規定に従って行われる請願のための集団行進については何らの影響を及ぼすものではないものといたしております」と、のちに同法第八条に反映される説明を行っている。

 さらに、本会議に先立つ議院運営委員会においては起草案の提案者及び政府当局等に対し「本法律案は、国会や行政官庁に対する国民の請願等集団行動については規制、影響を与える意図はないと認識してよいか」など、規制の対象に関する質疑がなされた。

 この質疑に対しては、提案者である三塚議院運営委員長からは直接「現在、東京都公安委員会の許可を受けて国会議事堂周辺で行われている労働団体等による請願及び陳情については、規制の対象には当たらない旨」の答弁があった。

 くわえて政府当局の側からは「本法律案で規制されているのは、社会通念上当該地域において受忍し得ないような形態での拡声機の使用であり、平穏に行われる請願行進を規制する趣旨のものではないと受けとめている」との旨の答弁が行われた。

 また、同質疑では政府に対して本法律案の運用に際して「現場の警察官が恣意によって判断することがないよう統一的、客観的な運用を行うよう要望」があったため、本法律案の提出に伴って、自民党、日本社会党・護憲共同、公明党・国民会議、民社党・民主連合、日本共産党・革新共同の五派共同提案による委員会決議が行われたことは

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筆者

五野井郁夫

五野井郁夫(ごのい・いくお) 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

高千穂大学経営学部教授/国際基督教大学社会科学研究所研究員。1979年、東京都生まれ。上智大学法学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了(学術博士)。日本学術振興会特別研究員、立教大学法学部助教を経て現職。専門は政治学・国際関係論。おもに民主主義論を研究。著書に『「デモ」とは何か――変貌する直接民主主義』(NHKブックス)、共編著に『リベラル再起動のために』(毎日新聞出版)、共訳書にウィリアム・コノリー『プルーラリズム』(岩波書店)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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